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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場:ワンオペの世界」岩﨑康孝

No.5134 (2022年09月17日発行) P.62

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-09-01

最終更新日: 2022-09-01

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「ワンオペ」に関しては、ある飲食チェーンが膨大な業務を長時間にわたり一人に任せていたことから話題になりました。

雇用側は、仕事をこなせれば、職員数が少なく、コストが低いほうが良いでしょう。

一方、従業員側は、重労働、残業、危険は避けたいと思うのが普通です。今では、ワンオペではないことを強調している求人もあります。

業務量と配置人員の関係は、ビジネスにおいて永遠の課題です。

確かに、臨床現場で見ていると「過重労働」をきっかけに体調を崩して受診する患者さんがいらっしゃいます。残業時間が月100時間を超えて数カ月勤務している経理の方、会社の携帯を持たされ24時間対応を強いられている営業の方、システムトラブルが続き業務負荷が増えたSEの方等です。

ただし、退職の理由からすると、20歳以上のほぼ全年齢で「人間関係」が「労働条件」を上回っています※1。評判の悪い「ワンオペ」ですが、同僚間の人間関係が薄いので、実は、この問題から逃れることができます。

実際には、「ワンオペ」が問題となる業種と、そうでない業種があると思えます。

引き金となったチェーン店の接客業では、「一人分の業務量を超えている」ことの他に、「多数の客」「同時に接客」「緊急対応あり」等、そもそも一人では対応できないので問題となりました。確かに、客席の多い飲食店以外にも、スーパーマーケット等の来客数の多い接客業、工事現場、救急隊・消防隊、警察、テレビ業界、宿泊業等では、「ワンオペ」は成立しそうもありません。

一方、「ワンオペ」で「うまくいく人」がいます。人間関係が原因で退職した人には、クリーニング店、UberEATS、マンションコンシェルジェ、訪問介護等の「ワンオペ」経由で社会復帰なさる方がいらっしゃいます。おそらく、一般的な対人関係そのものに敏感になった方にとって、「ワンオペ」は社会復帰のハードルが低いのではないでしょうか。その後、「ワンオペ」を続ける方もいますが、「非ワンオペ」の仕事をなさっている方もいます。

このような視点、かつ仕事内容から考えると、UberEATS、郵便・宅配便の配達等の運搬系、マンション管理、クリーニング店等のいわば店番系、訪問看護・介護等の訪問系等の「ワンオペ」は案外、良い「ワンオペ」なのかもしれません。

次回は「弁護士の世界」をお伝えします。


※1 厚生労働省:令和2年雇用動向調査結果の概要.

    https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/index.html

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[退職理由][良いワンオペ]

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