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【識者の眼】「月経不順や不妊だけではない、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の周産期・出生児予後への影響」重見大介

No.5139 (2022年10月22日発行) P.60

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-09-29

最終更新日: 2022-09-29

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多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は、「両側卵巣が腫大・肥厚・多嚢胞化し、月経異常や不妊、肥満などを伴う症候群」と定義される疾患です。女性の約5〜10%が有しており、月経不順や不妊症を主訴に婦人科を受診して診断されることが多いものです。

これまで、代表的な症状・徴候として月経不順、肥満、インスリン抵抗性、排卵障害などが認識されており、主に非妊娠女性や妊娠を希望する女性が悩まされる疾患と考えられてきました。しかし、近年では「妊娠・分娩期合併症」や「出生児の乳幼児〜小児期予後」にも影響しうるという研究結果が報告されています。

たとえば、米国入院診療データベースを用いた7000万人以上の女性を対象とした後方視的コホート研究では、PCOSを有する女性では糖尿病や肥満などの合併症を有する割合が高く、その変数を調整してもなお、妊娠・分娩期の妊娠高血圧腎症や子癇、周産期心筋症、心不全、肺水腫などのリスクが高まっていたことが示されました1)。また、カナダ・ケベック州の小児約103万人を対象に、母親のPCOSが出生児の13歳までの入院を要する罹病リスクに及ぼす影響を検討したコホート研究では、PCOS曝露児では非曝露児に比べて様々な入院リスクが高まっており、特に感染性疾患やアレルギー性疾患に起因する入院リスクに言及されています2)。なお、分析時には母親の高年齢や高度生殖補助医療の利用有無などが調整されています。

これらのような、PCOSによる「妊娠・分娩期合併症」や「出生児の乳幼児〜小児期予後」への影響を減らすために有効な対策は確立されていません。しかしながら、PCOSを妊娠前から適切に管理することで、これら合併症等のリスクを軽減できる可能性は推察できます。この検証にはさらなる研究が必要ですが、PCOSの早期発見と適切な管理、そして小児科との連携などが重要だと言えるでしょう。

【文献】

1)Zahid S, et al:J Am Heart Assoc. 2022;11(16):e025839.

2)Wei SQ, et al:Hum Reprod. 2022;37(9):2135-42.

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[妊娠・分娩期合併症]

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