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【識者の眼】「後期高齢者医療制度:3つの『見えない』所得」岡本悦司

No.5144 (2022年11月26日発行) P.59

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-11-04

最終更新日: 2022-11-02

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後期高齢者が急増し、現役世代人口が先細りする中、後期高齢者医療制度の財源面でも、現役世代からの支援金よりも後期高齢者自身の負担へシフトすることが避けられない。しかし審議会等に提出される案は、①保険料賦課限度額の引き上げや、②後期高齢者と現役世代の負担比率の見直し等、小手先の改革にとどまっている。

後期高齢者の所得には賦課対象になっていない「見えない」所得が3つあり、抜本改革には、それらを賦課対象とすることをまず検討すべきであろう。

1つは、遺族年金。遺族年金は障害年金とともに非課税であり、税も保険料も賦課されない。毎年公表される被保険者実態調査によると後期高齢者の年金収入の総額は約23.8兆円であった(2021年)。しかし、これは老齢年金のみであって、遺族や障害年金は含まれていない。遺族年金受給者は約600万人、総額約6兆円にものぼり、かつその98%は女性である。男女の平均余命の差異から、後期高齢者は必然的に女性割合が大きくなり(約6割が女性)、遺族年金受給者の大半は後期高齢者と考えられる。

もう1つは被用者保険の元被扶養者の所得割。75歳の前日に被扶養者であれば、その後所得がどんなに増えても生涯にわたって所得割は賦課されない。そうした元被扶養者は約144万人(全体の約8%)おり大半は低所得だが、1000万円を超える高所得者も1209人いる。被用者保険でも被扶養者と認定されてもそのまま終身有効にはならない。たった1日で、人生の保険料負担の有無が決定されることは不合理であり、せめて毎年、被扶養者要件を満たすかのチェックが必要であろう。

最後は配当や株譲渡益といった金融所得である。金融資産は高齢者に偏在しているが、NISAや特定口座(源泉徴収有)といった税制上の措置によりその大半は申告されず、当然賦課対象にもなっていない。「貯蓄から投資へ」を促進するための優遇措置とはいえ、医療保険や社会保障にまで優遇を広げるのはいかがなものか?

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[遺族年金][被用者保険][金融所得

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