No.5151 (2023年01月14日発行) P.59
重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)
登録日: 2022-12-27
最終更新日: 2022-12-27
「卵子凍結」とは、妊娠を見据えた「未受精卵子および卵巣組織の凍結」を意味しますが、目的によって「医学的な卵子凍結」と「社会的(個人的)な卵子凍結」に分けられます。医学的卵子凍結の対象となるのは、主にがん患者(白血病、乳癌など)です。将来の妊孕性を残すため、がん治療開始前に卵子を採取して凍結保存します(月経開始前の女児では卵巣組織を凍結保存します)。
一方、個人的な理由でしばらくの間妊娠・出産が難しい(もしくは選択しない)と考えている女性も卵子凍結を行うことができ、これが社会的卵子凍結と呼ばれます。ライフプランのマネジメントにおいて大きなメリットを得られる可能性がある、と近年注目を集めています。加齢による卵巣機能の低下に備えて若い卵子を保存しておくことが目的ですが、日本生殖医学会のガイドライン1)では、採卵時点での年齢は36歳未満が望ましいとされています。
社会的卵子凍結は現時点で自費診療の範疇であり、個人が自由に受けられます。背景にはキャリア・仕事を優先したい、結婚・妊娠するまでの数年間でも卵子の老化を防ぎたい、など様々な理由や事情がありますが、医師は本人の希望をふまえた上で、メリットと生じうるデメリットを総合的に判断し、適切な情報提供を通じて意思決定を支える立場であるべきでしょう。
メリットは、「卵子の老化を防ぐことで将来の妊娠確率を上げ先天性疾患の頻度を下げられる」ことですが、当然ながら卵子凍結をしても将来確実に子どもを持てるわけではありません。最近の研究報告では、融解卵子の生存率は66%、生児出産に至ったのは26%であり、40歳以上に限ると生児出産に至ったのは約9%のみでした2)。また、将来的に結婚やパートナーができる保証もないので、実際に凍結卵子が使われたのは10%程度だったという報告もあります3)。身体的には歳を重ねますので、高齢妊娠・出産に伴う負担や危険性も周知されるべきでしょう。また、一連の手順に伴う合併症や副作用(卵巣過剰刺激症候群、穿刺による出血など)の可能性や、費用負担(概ね数十万円〜)についてもきちんと情報提供がなされることが求められます。
社会的卵子凍結に関する日本からのデータを注視していきたいと思います。
【文献】
1)日本生殖医学会:倫理委員会報告「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」. 2018年.
2)Tsafrir A, et al:J Assist Reprod Genet. 2022;39(11):2625-33.
3)Kasaven LS, et al:Arch Gynecol Obstet. 2022;306(5):1753-60.
重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[ライフプラン]