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【識者の眼】「新型コロナウイルスと病理医の3年間」榎木英介

No.5157 (2023年02月25日発行) P.61

榎木英介 (一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)

登録日: 2023-02-03

最終更新日: 2023-02-03

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新型コロナウイルスの感染者の扱いが5類となることが決まった1)。これに関しては、医療現場から様々な意見が出ている。ここでは触れないが、人々が新型コロナウイルスを普通の感染症として意識し始めたエポックメイキングなことと言える。これを機に、この3年間を病理医の立場から振り返ってみたい。

新型コロナ治療の最前線に立たなかった、いや立てなかった病理医にとっても、新型コロナが与えた影響は大きい。1つは、病理診断が「不要不急」とされたことだ。それはわからないではない。緊急事態宣言や感染拡大により院内クラスターが発生するなどすれば、手術や健診が延期になる。それゆえ私たちの診断する標本数が激減するのだ。

これと裏腹ではあるが、感染が比較的落ち着いた時期には、どっと標本が出る。過去3年間、標本が少ない時期と多い時期が繰り返されるという経験をした。私たち病理医にとっては、標本の量で間接的に感染の状況を感じることができたのである。

しかし、それ以上に影響が大きかったのが、病理解剖の激減だ。近年そもそも減少傾向にあった病理解剖は、新型コロナウイルスの影響でさらに減少傾向が加速した。2019年に1万19件あった病理解剖は、2020年には7717件と2割以上減少したのだ2)。2021年以降のデータはまだないが、多少は数が戻っているとは思われるものの、減少傾向は変わらないだろう。

この大幅な減少は、病理解剖を行う施設(剖検室)の空調、感染対策が乏しい病院が多いからだ。診療報酬の対象外である病理解剖は、やればやるほど赤字になるという構造を持つ。こうしたこともあって、剖検室の整備に十分資金を投入する病院は多くない。このため、十分な感染対策が備わった剖検室は限られているのである。日本病理学会は長年、病理解剖の公的資金からの予算化を要望しているが3)、要望が通る気配がない。

結局のところ、5類になろうがなるまいが、病理解剖を取り巻く状況は変わらず、病理医や臨床検査技師は様々な感染症に触れる危険性に曝され続けるのである。

【文献】

1)新型コロナウイルス感染症対策本部:新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について.(令和5年1月27日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_r2_050127.pdf

2)日本病理学会:年度別の剖検数. 
https://pathology.or.jp/kankoubutu/all-hyou.html

3)日本病理学会:国民のためのよりよい病理診断に向けた行動指針2021.
https://www.pathology.or.jp/jigyou/guideline2021-210423.pdf

榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[病理解剖の減少][新型コロナウイルス感染症]

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