No.5157 (2023年02月25日発行) P.58
竹田 誠 (東京大学大学院医学系研究科・医学部・微生物学教授)
登録日: 2023-02-16
最終更新日: 2023-02-16
現在、新型コロナウイルス感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)において新型インフルエンザ等感染症のいち類型とされ、また、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の対象疾患であるとして、感染症法の2類相当の対応を取ることになっている。しかし、状況の変化から政府は、当該感染症を感染症法における新型インフルエンザ等感染症から外して、5類感染症に移行する方針を決定した。今一度、感染症法制定の頃を振り返ってみたい。
1997年12月「新しい時代の感染症対策について」の報告書が、公衆衛生審議会伝染病予防部会によってまとめられた。1998年10月に制定された感染症法の基盤となった報告書である。従来法を一新した同法においては、各々の感染症を危険性の高いものから順に1〜4類に(後に感染経路や対策の違いなどを加味した上で1〜5類に)類型化し、それら類型と医療提供体制とを関連付けた。さらに、人権の尊重を最大限に目指しつつも入院勧告や命令等を通じて感染拡大防止の実効性確保を目指した画期的な法律の制定であった。また、既知の感染症の危険性の変化や新しい感染症の発生に対しても、指定感染症や新感染症の項目を加えることで、新しい時代を見据えた革新的内容であったといえる。重要なことは、本法が、上記報告書でも繰り返し述べられている良質な医療を(すべての感染症患者へ)提供するという理念に基づいているということだ。
一方、感染症の中には人の健康のみではなく、社会を危機に陥れるものがある。その対策には感染症法では不十分であり、社会や経済への影響を最小に止めることを目的に、2013年特措法が施行された。
新型コロナウイルス感染症が特措法の対象疾病から、感染症法の5類感染症に変わるということは、この感染症による社会的影響が、許容範囲になった(社会的に受け入れ可能)と判断されたということであろう。確かに、社会全体が機能不全に陥るような危険性はほぼなくなったと思われ、筆者は基本的にこの方針に賛成である。ただし、この感染症に対しての弱者(高リスク群)をどのように守っていくのか、また、一部の患者で長く続く合併症にどのように対処していくのかなど課題は多い。
5類感染症への移行後にこそ、良質な医療をすべての感染症患者へ提供することを目指し、社会全体でこの感染症に対処していくことが求められるであろう。
竹田 誠(東京大学大学院医学系研究科・医学部・微生物学教授)[新型コロナウイルス感染症][感染症法]