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【識者の眼】「おたふくかぜワクチンの大規模調査に報告を」勝田友博

No.5161 (2023年03月25日発行) P.59

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2023-03-09

最終更新日: 2023-03-09

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わが国においては、1993年にMMR(measles、 mumps、 and rubella)ワクチンが、接種後の無菌性髄膜炎の報告数増加を理由に定期接種から除外された後、おたふくかぜ含有ワクチンは実に約30年間にわたり任意接種のままとなっている。国がその接種率をほぼ正確に把握している定期接種ワクチンと異なり、任意接種に分類されているおたふくかぜ単味ワクチンの国内における正確な接種率は不明であるが、30〜40%程度と推定されている。その結果、国内におけるおたふくかぜ推定患者数は年間43.1〜135.5万人とされている1)。国内の「定期接種」とほぼ同義である、国の施策に伴うワクチンスケジュール(national immunization program:NIP)におたふくかぜ含有ワクチン(多くの国ではMMRワクチンを用いている)が含まれていない先進国は、わが国だけである。

おたふくかぜ罹患による最も深刻な合併症の1つに不可逆性の難聴が知られている。実際、国内においては、 2015〜16年の2年間に少なくとも348例のムンプス難聴が確認されており2)、おたふくかぜワクチン再定期接種化は国内における喫緊の課題である。

一方、国内で使用されている鳥居株、星野株を用いたおたふくかぜワクチンは、海外で使用されているJeryl-Lynn株を用いたワクチンと比較し、無菌性髄膜炎の頻度が明らかに高いことが知られているため、海外におけるMMRワクチンによる安全性評価をそのまま参考にすることは困難であり、わが国独自の安全性調査が必須である。実際に、国での定期接種化の議論の中では、「10万〜20万人を対象とした安全性に関する前向き調査が必要」とされている。

現在、日本小児科学会および日本医療研究開発機構(AMED)の2つの研究班は、おたふくかぜワクチンの定期接種化を検討するための参考資料とすることを目的として、国産おたふくかぜ単味ワクチン接種後の副反応が疑われる症状に関して多数例の大規模調査研究を行っている3)。調査の締め切りは今年3月末に迫っているが、本稿執筆時点で5万3000例からの報告に留まっている。

国内では一時期、海外ではNIPに含まれる多くのワクチンが接種できない状態が持続しVaccine Gapと呼ばれた。近年はようやく他国と同等のワクチンが接種可能な環境が整備されたが、おたふくかぜワクチンの定期接種化は依然として達成されていない。30年ぶりに獲得した千載一遇の定期接種化チャンスを逃す手はない。

【文献】

1)国立感染症研究所:おたふくかぜワクチンに関するファクトシート(2010年7月7日版).
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000207084.pdf

2)日本耳鼻咽喉科学会:2015−2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査. 2016.
https://www.jsvac.jp/pdfs/nancho_chosa.pdf

3)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:Mumps Vaccine Safety Database 副反応報告集計.
https://mumps.children.jp/board/index.html

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[MMRワクチン][定期接種][副反応]

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