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【識者の眼】「『過誤の有無は問わない』の意味を間違えてはならない」小田原良治

No.5175 (2023年07月01日発行) P.58

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-06-19

最終更新日: 2023-06-19

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「過誤の有無は問わない」の一文は、医療事故調査制度の根幹をなす、非常に重要なキーワードである。この重要な一文が明記されているのは、「医療事故調査制度の施行に係る検討について」1)および厚生労働省「医療事故調査制度に関するQ&A」2)の「医療事故の範囲」図部分である。

医療事故調査制度は、「医療の内」(医療安全)と「医療の外」(紛争解決)を切りわけることによりでき上がった。すなわち、医師法21条問題を「医療の外」(責任追及)の問題として、「医療安全」と切り離したのである。医師法21条を医療安全と切り離して解決する考え方は我々が提唱し、病院団体でコンセンサスを得たものである。「医療事故調査制度の施行に係る検討会」は、医師法21条問題を切り離した医療安全の問題として論議された3)。医療法6条の10で報告対象とされた『医療事故』は、「過誤の有無」とは関係なく、「医療に起因した死亡」と「予期しなかった死亡」の2つの要件によってのみ判断するのである。この2つの要件を共に満たすものを『医療事故』と定義し、報告対象とした。これが、「過誤の有無は問わない」の意味するところである。それゆえに、この一文は「医療事故の範囲」図部分に位置しているのである。

ところが、「東北厚生局令和4年度医療安全に関するワークショップ」4)では、「過誤の有無は問わない」の一文が、「医療事故の範囲」図の部分から削除され、「医療に起因する(疑いを含む)死亡又は死産の考え方(参照)」の部分に記載されている。これでは意味がまったく変わってしまう。講演の中でも、「医療事故の定義」や「過誤の有無は問わない」について誤った解説がなされている。「Third Global Ministerial Summit on Patient Safety 2018」の講演5)でも、「過誤の有無に関係なく、死に関連するものは報告対象」であるかのような表現があり、誤った方向に誘導しようとの思惑が透けて見える。制度を守るべき立場にある医療事故調査・支援センターが、このような改竄とも思われかねない広報を行っているということは問題が大きいと言わざるをえないであろう。我々は、「過誤の有無は問わない」の意味を間違えてはならないのである。

【文献】

1)厚生労働省:「医療事故調査制度の施行に係る検討会」における取りまとめについて.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000078202.html

2)厚生労働省:医療事故調査制度に関するQ&A(Q2).
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061214.html

3)小田原良治:未来の医師を救う 医療事故調査制度とは何か. 幻冬舎, 2018.

4)東北厚生局:YouTubeチャンネル. (現在は非公開)

5)Kimura S:“Medical Accident Investigation System”in Japan. 2018. p18.
https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/summit-slide.pdf

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療事故調査制度]

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