近年、「対話(ダイアローグ)」という言葉を目にすることが増えてきました。
対話を、単なる会話と同じ形式の場面で用いていることもたびたび目にはしますが、本来対話とは「広義には2人以上の人物間の思考の交流をいい、広く文学的表現法として用いられるが、特に哲学では問答によって哲学的主題を追究していく形式(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)」とされるように、「基本的には1対1で、日常会話よりもより深い主題について掘り下げて言葉を交わし、思考を高めていく」ことを指す場合が多いです。緩和ケアの領域で言えば、Advance Care Planning(人生会議)をはじめ、この対話形式を用いる場面は多々あります。
では、なぜ「対話」が重要なのでしょうか? 人生会議もそうですが、自分の死生観や治療の選好などについては1人で思考を深め、その結果だけを医療者や家族に伝えても、結果は同じだと思いませんか?
その答えとして、「対話の本質は思考の交流にある」は1つです。つまり、1人で考えた結論よりも、他の人の意見も聞きつつ、その考えも取り入れてまた新しい考えを生み出していって……となる。その結果得られるものは、1+1=2というほど単純なものではなく、対話の内容によってはそれが3にも4にもなることがあります。
ただ、対話の本質はそんな当たり前のところにはないんですね。本当の対話の価値は「自分の思考を、言葉にして出して、それをもう一度自分の耳で聞く」ことだと思います。対話のうち、片方が「聞き役」に徹する形式の場合を俗に「壁打ち」なんて言ったりしますが、本当の「壁」、つまりは1人で思考するよりも、その壁役が「人」であることの意味は、「その人に自分の言葉を届けたい」ことで、より言葉を洗練させる力が生まれるところにあるのです。そして、その洗練した言葉を自らの口から出し、その「音」をまた自らの耳で聞く。その繰り返しによって思考がさらに洗練されていく……、ということ。そしてさらに対話役の人が出す言葉を聞いて取り入れていくことによって、お互いの思考の高め合いが起こる、というのが対話の価値なのです。
この本質を理解しておくと、実際に人生会議などを行う場面で「自ら発した言葉を自ら聞いてもらう」ことを大切にできる、それはつまり「相手の話をさえぎらず、言葉をやり取りするペースを調整し、お互いの言葉をきちんと消化する時間をもうける」コミュニケーションに自然となっていきます。ぜひ、これからも「対話」を活用していきましょう。
監修:福島沙紀(臨床心理士・公認心理師)
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[Advance Care Planning][思考の洗練]