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【識者の眼】「マイナンバーカードの混乱について」杉村和朗

No.5184 (2023年09月02日発行) P.62

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-08-22

最終更新日: 2023-08-22

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大学において学生には学生番号が、職員には職員番号が割り振られている。非常勤職員が正規職員になったり、職員が他大学へ異動して帰学したりすると番号が変わるため、個人の医療情報の把握には大変苦労した。大学のようなクローズドな世界でもこうした状況であるから、異動の多い社会人や主婦の医療情報を把握することは非常に難しい。医療情報を一元的に管理できないことは、本人のデメリットであるばかりではなく、国民全体として大きな損失である。

来年4月に迫ってきた働き方改革への対応の大きな柱としてDX(digital transformation)の推進が挙げられる。県立病院でも受付窓口で、様々な保険証を確認する、入院支援センターでお薬手帳を確認するといった基本的な作業を、自動でできないかを委託事務の会社と検討した。保険証は活字なのでOCR(optical character recognition)でかなりの精度でデジタル化できるだろうと期待していた。その結果は悲惨なもので、完璧に認識できたのは70%程度であった。97〜98%程度なら進めようと思ったが、とても進められる状況ではなかった。マイナンバーカードの普及に期待しようということで、これらのデジタル化はいったん凍結した。

ところが最近、期待していたマイナンバーカードに関して、毎日のように問題点が報道されている。アナログデータをデジタル化する時の転記ミス、不完全な照合等人為的なミスが原因であるといわれている。担当省庁の責任者が、「各々の不具合は数万件から数十万件に1件程度の頻度なので、きわめて少ない」とコメントしている。造影剤検査は患者が受けるメリットは非常に大きいが、アレルギーによる死亡は25〜50万回に1回程度に生じるため、時間をかけて説明して理解を得ている。マイナンバーの場合は個人としてメリットを感じる割合は少ないのだから、マイナポイントなどで誘導せずにメリットについてもっと国民にわかりやすく説明すべきであった。

政府が世界から何周回も遅れている日本のデジタル化に、強烈な危機感をもって進めていることはきわめて正しい。医療界においても、これからの人材不足を大きく改善するためには、DX化を進めることは必須であり、その第一歩としてマイナンバーカードを用いた情報の一元化は欠くことができない。国民が保有する多種多様な保険証をマイナンバーに変更することを利用して、一気に保有率を高めようとしたのだが、保険証のマイナンバー化が悪のように位置づけられ、あらぬ方向に走っているのは残念である。

一刻も早くマイナンバーの信頼性を取り戻し、医療全体のデジタル化が進んでいくことを切に望んでいる。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[医療情報の一元化][DX]

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