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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『ワクチン接種後の心臓関連死の激増』のみかた」鈴木貞夫

No.5190 (2023年10月14日発行) P.55

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2023-10-02

最終更新日: 2023-10-02

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小島勢二名古屋大学名誉教授は、2022年5月に、厚生労働省アドバイザリーボードが発表しているワクチン効果は「接種日不明者を未接種群に分類しているため過大評価されている」と指摘をして注目された。指摘は正しく意義のあるものだが、誤分類そのものとは別に、厚労省の誤分類は「ミスか不正か」という議論が起きた。筆者(鈴木)は、ここで不正をしてもいつかはわかることなので、単純ミスと思ったが、議論は必要だという考えを持っている。小島氏は、「厚労省はワクチンの効果をよりよく見せるためにデータの改竄まで行った」という立場を明確にしている1)

9月19日付のアゴラ言論プラットフォーム「コロナワクチン接種開始後早期に見られた若年成人の心臓関連死の激増」で小島氏は、男性の不整脈、心不全について、 2021年の人口動態の年齢別、月別の死亡者数を用いて検討している(同記事は現在は削除)。グラフでは4つの年齢層(10、20、30、40歳代)すべてで2〜4月、特に4月には例年に比べて数倍レベルの激増が認められており(5月にはすべて下がっている)、何らかの理由があると考えるのは当然だ。一方で、激増が若年者限定とは考えにくい反面、2021年の平均寿命の短縮はわずかという事実もある。この齟齬の原因探索のため、筆者は1次データで確認した。政府統計のデータベースe-Stat、表番号4-6の「死亡数、死因(選択死因分類)・性・年齢(5歳階級)別」2)から、2021年4月の不整脈と心不全のデータについて検討した。

小島氏の記事のグラフから読み取れる4月の不整脈と心不全の死亡者数は、この順に10歳代で5、4人、20歳代で29、19人、30歳代で46、19人、40歳代で145、112人であった。これに対してe-Statの数値は、10歳代で1、1人、20歳代で9、1人、30歳代で7、4人、40歳代で31、21人と数倍レベルの不一致を示し、「若年成人の心臓関連死の激増」は観察されなかった。なお、5月以降のグラフの概形はe-Statデータと一致した。アゴラでは、この数値の不一致を指摘する声が相次ぎ、筆者のFacebookでの発言3)も引用された。現在、記事は削除されているため、この指摘は正当なものであったと考えられる。ミスが誤った結論を誘導したという点において、小島氏自身が指摘した厚労省の案件と同じ構造である。

この記事のデータの1〜4月のものは当該月の集計ではなく、年頭からの累計ではないかという意見があった。そう考えれば、この期間、特に4月の激増についての説明はつく。小島氏は厚労省の件を改竄とまで批判したのだから、自身の類似案件に対しても同じ厳しさを持ってことにあたる必要がある。

使用したデータの開示は当然として、なぜこのような間違いが起きたのか、この間違いに対し、自身の仮説がどのように変わるのかなどへの丁寧な説明、場合によっては謝罪が必要だ。この件にどう対応するかで、小島氏の科学や学問に対する誠実さ、ダブルスタンダードを排したフェアな態度がわかる。見守りたい。〈10月2日〉


【追記】

筆者が本記事を9月25日に編集部に送付した後、アゴラ言論プラットフォームのサイトに10月1日、以下の記事がアップされた。

「9月19日に掲載された記事の訂正について」

【文献】

1)小島勢二:検証・コロナワクチン. 花伝社, 2023, 前書き.

2)厚生労働省:人口動態統計月報(概数)2021年4月.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=1&year=20210&month=12040604&tclass1=000001053058&tclass2=000001053060&result_back=1&tclass3val=0

3)鈴木貞夫:Facebook「非感染性・慢性疾患の疫学者」が語るコロナ話(1019)─小島名大名誉教授の暴走が止まらない.
https://www.facebook.com/suzuki.sadao/posts/pfbid0hitrShcjhDPQN1ztZkqKuKckr92ChXvJ8Q5atEM3rHk369rrqLLfVysBCwYsR2uUl

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[人口動態統計][e-Stat ]

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