【EBMを理解するための基礎知識】
1.なぜEBMが必要なのか?
2.エビデンスの質と信頼性
3.無作為ランダム化二重盲検試験の正しい見方と読み方
4.メタアナリシスとは?
5.相対リスク、絶対リスクとNNT
6.バイアスについて
7.真のエンドポイントとサロゲート(代理)エンドポイント
8.intention to treat解析
9.オッズ比、ハザード比とコックス比例ハザードモデル
10.海外のエビデンスは日本人に適用できるか?
11.EBMと医師の技量・患者の特性
12.エビデンスも覆る!?―批判的に吟味する
13.商業主義とEBM
【症例カンファランスから学ぶ必修トライアル】
CASE 1 脳卒中後の血圧管理はどうあるべきか?
CASE 2 心房細動患者で脳塞栓症を予防する最適治療の選択
CASE 3 コレステロールを下げることで心筋梗塞は予防できるのか?
CASE 4 糖尿病性腎症を合併した高血圧症例における降圧薬治療
CASE 5 心筋梗塞後、高度に心機能が低下した症例に対する治療法
CASE 6 心筋梗塞後の降圧はどうあるべきか?
CASE 7 心機能低下例にβ-遮断薬を使うことのエビデンス
CASE 8 合併症のない高齢者高血圧に対する治療
CASE 9 ハイリスク高血圧患者の降圧薬治療について
CASE 10 ハイリスク症例におけるアスピリン治療のエビデンス
CASE 11 ハイリスクの高血圧例にはカルシウム(Ca)拮抗薬か、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)か?
CASE 12 高血圧を合併した心不全にはACE阻害薬かARBか?
CASE 13 狭心症患者のコレステロール値はどこまで下げるべきか?
CASE 14 日本人の高コレステロール血症に対するスタチン薬治療の有用性は?
CASE 15 多枝冠動脈病変に対してはバイパス手術かPCIか?
しかし、ここ20年の間に新しいタイプの優れた高血圧治療薬、高脂血症治療薬、糖尿病治療薬などが相次いで登場したことで、疫学研究で示されていた血圧レベル、コレステロールレベルへの到達が比較的容易になり、疫学研究の成果を確認することができるようになった。
EBM(evidence based medicine)とは、文字通り、科学的な根拠に基づいた医療ということであるが、科学的根拠の根幹となるのは大規模臨床試験である。大規模臨床試験の成果によって変換を遂げた治療は枚挙にいとまがなく、それまでの治療学を大きく変えたことは、長らく臨床の場に身を置いている者として切実に感じている。
たとえば、長い間「高めでよい」とされていた高齢者の高血圧が、今では「厳格に治療」というように大きく変わったし、また心不全に禁忌とされていたβ-遮断薬が突如、心不全に不可欠の治療薬であるというように変換した。
臨床家は常に、相次いで発表される大規模臨床試験情報を追跡し、その結果をあくまでも画一的な集団での結果として捉え、かつ批判的に吟味しながら、実際の目の前の患者さんの臨床背景を考慮しながら治療学に応用する必要がある。
本書はこれまでのエポックメーキングとなった循環器疾患の治療学に関する大規模臨床試験の中で、臨床医、若手スタッフ、研修医がぜひ覚えておかなければならない必修トライアルを15試験厳選し、臨床試験の結果をどのように応用していくかについて、実際の症例検討会の中で学んでいこうというものである。
本書が臨床の現場で根拠に基づく医療を実践する上で、少しでもお役に立てば望外の喜びである。
2007年2月
桑島 巌