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【識者の眼】「男子のHPVワクチン定期接種化へ向けて」稲葉可奈子

No.5191 (2023年10月21日発行) P.61

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-10-04

最終更新日: 2023-10-04

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ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)ワクチンが子宮頸がん予防に寄与することは以前に取り上げた通りですが、HPVが引き起こす病気は子宮頸がんだけではありません。肛門がん、中咽頭がん、陰茎がん、尖圭コンジローマなどの原因でもあります。つまり、男性もHPV関連疾患に罹りうるのです。世界のがんの約5%はHPVが原因と言われています。HPVが原因のがんの発症数は、世界で毎年、子宮頸がんが53万、肛門がん3万5000、中咽頭がん2万9000、陰茎がん1万3000、腟がん1万2000。

男性がHPVワクチンを接種することで、男性自身がHPV関連疾患を予防できると考えられています。また、HPVは性交渉により感染するため、男性が感染しなければそのパートナーの女性にうつすこともない(逆も然り)ので、女性をHPV感染から守ることにもつながります。なお、日本では男性に適応があるのは4価HPVワクチンのみ、接種推奨年齢は小6〜高1、初めての性交渉より前の接種が最も有効です。

最も患者数が多いのが子宮頸がんなので、どの国もまずは女性の接種に公費助成をしていますが、男性の接種も推奨する国が増えてきており、世界20カ国以上で公費助成されています。2006年に世界で最初に男性接種も公費助成されたオーストラリアでは、男女ともに接種率が高く、28年には子宮頸がんが撲滅されると推測されています。

日本でも男性接種への助成を要望する声はあり、一部の自治体で独自に助成が始まっています。22年に日本で初めて青森県平川市で男性接種が助成されたのを皮切りに、いくつかの自治体が続き、23年8月に東京でも中野区で男性接種公費助成が始まりました。自費で5〜6万円というのはどの家庭でも出せる金額ではありません。予防できる病気を予防する機会が公平に与えられてほしいと願います。厚生労働省も検討はして下さっていますが、まだ時間がかかりそうという中で、東京都が理解を示し、9月26日の都議会定例会での質問に答える形で小池都知事が「前向きに検討する」とコメント。都ならではのスピード感のある実装が期待されます。都全体で助成をするインパクトは大きく、国の後押しともなるでしょうし、何より停滞している女性の接種の追い風となるのではないかと期待します。

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[HPV関連疾患][HPVワクチン][公費助成]

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