2023年9月に入り、拡大が続いていた新型コロナウイルス感染症も減少傾向となってきた。一方で、ここ数年大規模な流行がなかったインフルエンザの増加で、現場の業務負担は大きいままである。さらに、ワクチン接種などの追加業務や、職員および職員家族の欠勤対応は続いており、現場は依然として逼迫している。
このような厳しい環境の中、医療職のバーンアウトとその対策について、これまでも本欄で取り上げてきた(No.5129、5134)1)2)。
その後、国内外のエビデンスの蓄積や関連書籍の出版3)4)など、この問題に対する関心はさらに高まっているが、対策の動きは鈍い。医療職のバーンアウトと医療の質の低下、医療事故の増加との関連性については既に指摘されており、早急な対策が求められることへの異論はないだろう。一方、小規模医療機関が多くを占めるプライマリ・ケア現場におけるバーンアウト対策は、個別の対策に加え、組織としての支援が必須である。そこで、本稿ではこれらに関する提言を改めて行いたい。
第一に求められるのは、国内のプライマリ・ケアにおけるエビデンスの蓄積である。国外のデータによれば、General Practitioner(家庭医・総合医)のバーンアウトの有病率は高いとされているが、国内のデータは主に急性期病院に関するものが中心である。したがって、国内のプライマリ・ケア現場におけるデータの収集と、それらに基づいた具体的な対策の実行が急がれる。
第二に、プライマリ・ケア現場における業務環境の改善を進めていくことである。これは医師の働き方改革とも関連しているが、診療所を含む地域の医療機関における業務環境の改善と支援は同時に行っていくべきである。また、医療機関や医療者への暴力行為や誹謗中傷に対し、毅然とした対応と支援を行うことは言うまでもない。
最後に、以前の提言でも述べたが、職業規範の1つとして自身のウェルビーイングの維持を文化として醸成することである。伝統的な医療者の職業規範5)では、患者を優先し、自己犠牲と忍耐がむしろ高く評価されてきた。しかし、これは自身の健康を後回しにすることを意味するものではなく、それぞれ両立させるべきものである。これらのバーンアウト対策を進めることは、患者と社会を守るための重要なアクションであると位置づけ、社会に対し理解を求めていくべきである。
【文献】
1)松村真司:医事新報. 2022;5129:57.
2)松村真司:医事新報. 2022;5134:57.
3)下畑享良, 他:医のあゆみ. 2022;283(3).
4)牧石徹也, 他:医師の燃え尽き症候群. 金芳堂, 2023.
5)日本医師会:日医師会誌. 2022;151(4):付録.
https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/rinri/inorinri_leaflet.pdf
松村真司(松村医院院長)[医師の働き方改革][ウェルビーイング]