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[SPECIALセッション]地域フォーミュラリ・リフィル処方箋をどう活用するか 【シリーズ・クリニックの地域医療戦略】(草場鉄周 × 近藤太郎 × 小見川香代子)

No.5196 (2023年11月25日発行) P.14

登録日: 2023-11-21

最終更新日: 2023-11-21

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医師・医療従事者向け動画配信サービス「Web医事新報チャンネル」(www.jmedj.co.jp/movie/)では、クリニックの地域医療戦略を考えるシリーズの第1弾として「地域フォーミュラリ・リフィル処方箋をどう活用するか」(全5回)を配信しています。本動画には草場鉄周(医師/日本プライマリ・ケア連合学会理事長)、近藤太郎(医師/日本フォーミュラリ学会副理事長)、小見川香代子(薬剤師/日本プライマリ・ケア連合学会理事)の3氏が出演。「地域フォーミュラリ」「医薬連携」「リフィル処方箋」などクリニックの薬物治療に関わる諸問題について本音の討論を繰り広げています。本動画の見どころをダイジェストでお届けします。(討論は8月3日に収録しました)


フォーミュラリは「処方の提案」

草場 近藤先生は地域フォーミュラリ(地域医療で使用が推奨される医薬品リスト)は「処方権の制限」ではなく「処方の提案」だと強調していますが、地域の医師にはどのように受け止められているのでしょうか。

近藤 実際にフォーミュラリが普及している地域は、大阪府八尾市や山形県酒田地区などまだごくごく限られた地域だと思います。

開業医は、ありとあらゆる薬の中からこれまでの経験をもとに得意なものを選んで使っているのが実態で、さじ加減まで知っている薬はそんなに多くありません。地域フォーミュラリに載っている薬をしっかり学び直すことは、自分の処方を見直すチャンスになると思っています。

草場 病院ではある程度選択する薬が共通化されている印象がありますが、開業後はどんな薬でも処方できる。しかし、さじ加減まで自分の中で体得できている薬は限られますよね。

近藤 (この薬を)出せば2週間後、4週間後、8週間後にこれくらい(数値が)下がると、おおよそ推理しながら出していませんか。

草場 出してますね。2週間程度で効果が出なければ別の薬に切り替えるみたいなことも含め細かな経験を積んでいる。あらゆる薬についてそういうさじ加減を習得することはかなり難しい。地域フォーミュラリを活用することは処方の制限ではなくサポートになる。第三者が吟味して選んだ医薬品を参考に自分の処方と見比べて(処方を決める)というイメージですよね。

近藤 フォーミュラリは常に見ることができるので、1つの物差しとして大変参考になると思います。

草場 実践的な教科書を読んでいる感じになりますよね。

薬剤師には遠慮なしに言ってもらいたい

草場 (地域フォーミュラリの問題は)医師と薬剤師の連携をどうしていくか、という議論にもつながります。しかし、特に都市部では、(薬局薬剤師が)すべてのドクターと顔の見える関係をつくるのはかなり難しいのではないでしょうか。

小見川 大きな病院はFAXでしか質問できなかったり、時間が限られていたりして(連携をとるのが)難しいですね。

草場 そのあたりは良い形でDXを活用できると、医師と薬剤師の間の情報共有の敷居がもう少し下がるのではないかと期待をしたいところです。

私も薬剤師さんと連携していますが、医師の処方に関して意見を言うことは、薬剤師にとってはまだまだハードルが高いのかなと。もっといろいろ言っていただいていいと感じるところもありますが、薬剤師の意識は、変化しつつあるような状況なのでしょうか。

小見川 今、変化しつつあるとは思います。以前は(医師に)情報提供をしてもいいのか考えている状況でしたが、最近は「先生がこの情報をどう活用されるか」までは考えずに提供しているケースが多いのではないかと思います。どの程度の情報であれば、先生はそれに配慮して次の処方につなげてくださるのか、知りたいところです。

草場 近藤先生は、薬剤師さんからの処方に関するフィードバックは増えていると感じますか。

近藤 私の医院は実はほとんど院内処方なんです。一部院外処方をしていますが、フィードバックしていただけるならば、ちょっと小うるさい程度に言ってほしいですね。うっかり気付いてなかったところをつついてもらった方が本当にありがたい。薬剤師側に遠慮があって「そこまでは言わなくていいんじゃないか」というところに実は大事なポイントがあったりする。ですので、「そんなことわかってるよ」と思うくらいのことまで伝えていただいた方が助かります。

リフィル処方の議論は十分行われたか

草場 リフィル処方箋(一定期間内に反復利用できる処方箋)については私自身もまだ積極的に進めるような状況ではないなと思っているのですが、リフィル処方が薬剤師の機能発揮に役立つというのは理解ができる。ただその手前の医師との信頼関係として、何か問題があったときにちゃんと受診勧告をしていただけるかどうかなどが大きなポイントになると感じます。

近藤 リフィル処方についてはなんとも言えないですね。(現場では)「お薬だけください」という患者さんが次々現れる場合がある。あれはぜひ避けたい。

不整脈の患者さんでも脈拍や血圧をうまく測れない、わかっていない人が多いんです。本当に安定しているのか、医師が診察室で診察してこそ安心してお薬を続けることができると思っています。

草場 そこは私も非常に共感ができます。リフィル(処方箋)の仕組みは患者側の責任も非常に重くなる。薬剤師の責任も重くなるので、果たしてそれだけの準備ができているのかと思います。

近藤 患者さんの利便性だけに振り回されちゃいけないなと思います。

草場 ドラッグストアで薬をもらうような感覚になってしまったら、ちょっと違う意味を持ってしまうと思う。自己責任の中でしっかりやっていく、薬剤師もデータが手元にない中で、患者さんの訴えで判断していくというのは今までとは全然違う枠組みですよね。そういう議論が十分行われた上で、リフィル処方が導入されたのか、私は疑問を持っています。

これは極めて重い話で、今までの日本の医療のあり方とちょっと違う文脈だと感じています。限定されたケースから始めた方がいいのかもしれません。

小見川 情報共有がうまくできていれば、きっとうまくいくと思うのですが、その辺が結構難しいです。

草場 石が投じられたのは事実ですので、今後どういう形で良い制度に持っていけるかは我々の責任でもある。注意深く見ていかなければいけないですね。

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