先日、訳あって某氏の紛失したマイナンバーカード再発行に立ちあった。これに仰天したのでここに記す次第である。
役所で再発行を申請すると「紙」で申請書類を書く。既に「最初の」マイナンバーカードを発行したときに住所などはデータに入っているはずだから本人確認だけでいいはずなのだが。そして、複数の職員がこの紙情報を処理し、最近はめっきり見なくなった箱型のデジタルカメラで顔写真を撮影、これをプリンターで印刷し「なくすといけないから」とこの写真の裏に名前をペンで記入。糊で所定の用紙に貼りつけ、これを封筒に入れる。そして「これを最寄りのポストに投函して下さい。再発行まで1カ月くらいかかります」とのこと。「え、ここで再発行手続きできないんですか」と聞くと、「できない」とのこと。1カ月程度待って郵便が届き、この紙をもって再度役所へ。そしてパスワードとかを入れてようやくマイナカードは再発行されたのだった。
郵便料金が値上げされる。郵便物の総量が激減しているから、値上げしても郵便事業は赤字のままだ。いずれ郵便ポストも公衆電話並みにレアな存在になるだろう。それでも「マイナンバーカードの表裏をコピーして紙に貼りつけて郵送してくれ」という依頼が後を絶たない。あまりに多くの場所に自分のマイナカードのコピーを郵送しているものだから、いっそウェブ上に公開して「こっからダウンロードしてくれ」と言いたくなりそうになる。
僕はアメリカでソーシャルセキュリティーナンバーがいかに便利か痛感してきたから、「マイナンバー」の概念自体には大賛成だ。そもそも個人情報を串刺しできる根拠が存在しないから、たとえばワクチンの副反応がどのくらい発生しているかも推定できない。アメリカだとワクチン接種情報と、疾患発生情報が紐づけされているから、ワクチン接種後にどのようなハザードが有意に増加したかを「自動的に」検出できる。申告の努力は無用で、もちろん紙もFAXも必要ない。人力をあてにしていないから、なんといっても正確なのが素晴らしい。
デジタル化はよいことなので紙の保険証がなくなることにも賛成だが、今のやり方だとマイナカードを紛失した患者たちはなんだかんだで困ることだろう。結局、マイナンバーというコンセプトは素晴らしいのだが、それを昭和な「カード」というマテリアルにしてしまったのがそもそもの失敗なのだ。いつまで続く泥濘ぞ。
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[マイナンバー][再発行手続き]