2024年は北里柴三郎イヤーですので、北里柴三郎先生の血清療法に関連した話題としまして、今回は国有抗毒素についてお話しします。
抗毒素製剤は以下の3つのカテゴリにわけられます。①国有抗毒素製剤、②国有抗毒素以外の保険承認薬、③臨床研究の枠組みのみで使用できる抗毒素(未承認薬)、です。
臨床現場で最も頻度が高く使用されているマムシ抗毒素は②のカテゴリに当たります。ヤマカガシ抗毒素やセアカゴケグモ抗毒素は③に該当します。①の国有抗毒素製剤はガス壊疽抗毒素、ジフテリア抗毒素、ボツリヌス抗毒素(A、B、E、F)です。これらの抗毒素製剤は公共性が非常に高い一方、企業としては採算ベースに合わないので、国がいったん買い上げて、特定の機関に保管しています(2024年現在、全国で9機関のみです)。保険承認薬です。
臨床使用における適応については、Clostridium perfringens敗血症に対するガス壊疽抗毒素による中和治療、また爆発的に増加しているコリネバクテリウム・ウルセランス感染症(ジフテリア類似疾患)に対するジフテリア抗毒素による治療、ボツリヌステロ対策におけるボツリヌス抗毒素の使用が検討され、未来に向けてその効果、存在意義は大変高まっています。
国有抗毒素の使用に関する注意点を少しお話しします。国有抗毒素は非常に高額ですが、承認薬ですので保険診療の範囲内で患者さんに自己負担が発生します。費用は、たとえばガス壊疽抗毒素で1バイアル当たり約60万円、大体2バイアル使用するとなると120万円程度になります。ボツリヌス抗毒素は1バイアル175万円程度と高額です。さらに大切なポイントは、各保管施設から取り寄せた時点で、もし患者の死亡や重篤な副反応の発生によって、すべての取り寄せた血清が使用できなかった場合には、病院・施設の負担となってしまう可能性があることです。返品がきかない、というのが現状です。
実際の使用に際しては、都道府県の薬務課が担当していることが多いので、まず“国有抗毒素”と“都道府県名”で検索をかけて頂きまして、該当部署に直接お電話などで確かめて頂くのがよいと思います。ウマ血清ですので、アレルギー反応に注意して投与することが大切です。
一二三 亨(聖路加国際病院救急科医長)[血清療法][保険収載][ウマ血清]