わが国ガイドライン[脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕]では脳卒中後の使用が「妥当」「考慮しても良い」とされているセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)だが、抗血小板薬2剤併用(DAPT)例や65歳以上の経口抗凝固薬(OAC)服用例では出血リスクが増加する可能性が明らかになった。2月7日から米国フェニックス(アリゾナ州)で開催された国際脳卒中学会(ISC)において米国・UT サウスウェスタン・メディカル・センターのKent P. Simmonds氏が報告した。
発症後亜急性期の脳梗塞例を対象にSSRI/SNRIの出血リスクを評価したのは、本研究が初めてだという。
今回Simmonds氏らが解析に用いたのは、全米70施設の診療データからなるデータベースである。脳梗塞発症後90日以内にSSRIまたはSNRIを初めて開始した4万136例と抗うつ薬を開始しなかった61万2868例が抽出され、背景因子を傾向スコアでマッチした3万6838組(7万3676例)が解析対象となった。補正前の数字では脳梗塞発症例の6.2%が、90日以内にSSRI/SNRIを開始していた計算である。
これら7万3676例を対象に、脳梗塞発症後1年間の「全出血」と「脳出血」「転倒・骨折」「死亡」リスクを、「SSRI/SNRI開始」群と「抗うつ薬非開始」群間で比較した。
・全例
その結果、脳梗塞発症後1年間の「全出血」「脳出血」とも「SSRI/SNRI開始」群と「抗うつ薬非開始」群に有意差はなかった。相対リスク(RR)は「全出血」が0.99(95%信頼区間[CI]:0.96-1.04)、「脳出血」が1.03(95%CI:0.99-1.08)だった。「死亡」も0.97(95%CI:0.94-1.01)と同様だった。一方「転倒・骨折」リスクは「SSRI/SNRI開始」群で0.89(95%CI:0.84-0.95)と有意に低かった。
・DAPT例
ただし脳梗塞後DAPT例(1万5072例)のみで比較すると結果は異なり、「SSRI/SNRI開始」群におけるRRは「全出血」で1.11(95%CI:1.00-1.24)、「骨折・転倒」で1.24(95%CI:1.08-1.43)とリスクの有意上昇が見られた。一方「脳出血」と「死亡」リスクに有意差はない。
・OAC服用例
脳梗塞発症後にOACを服用していた1万5884例では、「全出血」と「脳出血」「転倒・骨折」「死亡」のいずれも、「SSRI/SNRI開始」群におけるリスク有意増加は認められなかった。ただし「65歳超」のOAC服用例だけ(9592例)で検討すると「SSRI/SNRI開始」群は「全出血」と「脳出血」「死亡」のRRがいずれも有意に高くなっていた。この「65歳超」における「SSRI/SNRI開始」群の「全出血」「脳出血」リスク上昇(vs. 65歳以下)はDAPT服用例でも同様で、「抗うつ薬非開始」群と比べて認められたリスク上昇(上述)は「65歳超」でより著明となっていた。
Simmonds氏は本解析がSSRI/SNRIの「有効性を評価していない」という限界があると認めつつ、脳梗塞後亜急性期までの「SSRI/SNRI開始」は、DAPT服用例、あるいは65歳以上のOAC服用例では慎重に検討すべきだとの考えを示した。
本研究には申告すべき利益相反はないとのことである。