お隣韓国の医療が深刻な状態に陥っている。政府が医学部の定員を2000人増やすと発表したことに、医療界が強く反発しているのだ。初期研修医が集団辞職し、職務をボイコットした。これに医学生が賛同し、休学届を提出。韓国の医療は大混乱に陥っている1)。
政府も一歩も引く気配がなく、妥協の兆しが見えない。状況が刻一刻と変化しているので、本稿が出る時点では何らかの妥協に至っている可能性があるが、3月5日時点での状況から考えたことを書いてみたい。
まず、韓国の医師たちの行動する姿勢には驚かされる。現場の混乱や批判をものともせず、1万人もの研修医が集団辞職を断行する行動力は、医療崩壊がいわれてもストライキもデモもほとんどせず、「立ち去り型サボタージュ」をするだけの日本の医師たちとは天と地ほどの違いがある。日本でも医療関係者がストライキを行うことはあるが、できる限り患者さんに迷惑がかからないようにする傾向が強い。
もちろん、患者の命を人質にとる行為であり、韓国の国民の批判は強い2)。実際、病院をたらい回しにされ死亡した患者が出たことが報道されている。本稿公開時点ではどうなっているのか想像がつかない。医師が医学部定員増に反対する理由も、医師不足を嘆きつつ増員を否定するというわかりにくいもので、高給という既得権益を守りたいようにみえ、国民を納得させるものではないようだ。しかし、給料の安い研修医に依存する体制に対する抵抗の姿勢は揺るぎなく、政府の医師免許停止の方針にもかかわらず、現場に戻る気配はほとんどない。
こうした韓国の研修医たちの行動を見ると、過重労働にせいぜい立ち去るばかりで、ほとんど抗議もせず、従順でなすがままの日本の医師たちも、集団辞職のような過激な行動をしろとは言わないが、もう少し自らの意見を表出してもよいのではないかと思う。
昨年にはイギリスでも医師のストライキがあった3)。ストライキは影響がなければ効果が乏しいという難しいジレンマを抱えるが、日本の医師たちも行動すべき時なのではないか。
【文献】
1)FNNプライムオンライン公式サイト:鴨下ひろみ, 韓国の医師はなぜ「医学部の定員増加」に反対するのか…希望職業2位でも医師不足という「階級社会」のひずみ.(2024年2月25日)
https://www.fnn.jp/articles/-/662176
2)現代ビジネスプレミアム公式サイト:金 敬哲, 韓国・尹錫悦政府 vs. 医師団体「医学部定員拡大」巡る正面衝突はなぜここまで拗れているのか.(2024年2月26日)
https://gendai.media/articles/-/124851
3)NNA EUROPE公式サイト:【英国】若手医師、年末のスト突入 救急外来に影響も.(2023年12月21日)
https://europe.nna.jp/news/show/2606033
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[集団辞職][ストライキ][立ち去り型サボタージュ]