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【識者の眼】「救急・集中治療終末期ガイドライン改訂②─『終末期』の定義」伊藤 香

No.5215 (2024年04月06日発行) P.61

伊藤 香 (帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)

登録日: 2024-03-21

最終更新日: 2024-03-21

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前稿で宣伝させて頂いた通り、3月16日に第51回日本集中治療医学会学術集会のシンポジウム15「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン〜3学会からの提言〜改定のポイント」にて座長を務めてきた。当シンポジウムでは、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会のガイドライン改訂コアメンバーと終末期の定義に関して議論した。

現版ガイドラインでは、救急・集中治療における終末期の定義を「集中治療室等で治療されている急性重症患者に対して適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期である」としている。しかしながら、医療技術が日進月歩で高度化する現代の集中治療の現場においては、「救命の見込みがない」状況を「終末期」としてしまうと、たとえその治療が患者にとって耐えがたく、患者の望むゴールが達成できないような無益なものであっても、延命措置を継続すれば生命が維持されてしまうような場合は「終末期」と呼べなくなってしまう。

そのような問題点を踏まえ、4学会のコアメンバーが「終末期の定義の案」を出し合った。そこで最も多かった意見は、「終末期を定義しない(できない)」だった。このガイドラインが果たすべき最大の役割は、それが患者にとって最善であると判断された場合、延命治療の差し控え(withhold)/終了(withdraw)を医療者と患者・家族双方にとって安全に行うことができるようになるための指針となることである。その焦点をぼかさないためにも、終末期を定義するというより、どのような状況がwithhold/withdrawの対象として許容されるかを示すことが大切なのではないかということだ。その前提に立ち、患者中心の適切な意思決定支援のプロセス、医療従事者間で医学的に妥当で患者にとって最善の治療を話し合うためのプロセスを明示することで、それぞれの患者の価値観を反映させた集中治療終末期が提供できるようになるのではないだろうか。

人の生き方の「多様性」を尊重するようになった現代において、集中治療室での終末期が個々の患者の価値観を反映した多様なものとなることは自然な流れであるように思う。医療従事者側は、医療の専門的知識をもって医学的妥当性を検討しつつ、「終末期の多様性」を受け入れる素地が求められてくると思う。

当シンポジウムは2024年4月1日〜30日の間、第51回日本集中治療医学会学術集会ホームページの配信視聴サイトでオンデマンド配信される。会場での実際の議論の様子をぜひご参照されたい。

伊藤 香(帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)[意思決定支援終末期の多様性

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