日本慢性期医療協会会長として令和6年度の診療報酬改定、介護報酬改定の総合的な意見を申し上げる。
今回の改定は0.88%のプラス改定と言われているが、賃上げ、ベアなどを計算に入れると実質マイナス改定であり、病院によっては大幅な減収が見られるような大変厳しい改定であった。
トリプル改定ならではの内容が今までになく多く盛り込まれた改定であったと思う。特に、診療報酬・介護報酬では、医療機関と介護施設、在宅医療との連携が強化されている。今後は、「高齢者比率」「就労人口の減少」「総合診療や地域医療の実態」などを考えると、診療報酬・介護報酬を分断して議論すべきではないと思う。また、「急性期医療」「慢性期医療」も継続的に考える必要がある。
今回の改定での目玉は地域包括医療病棟の新設であり、急性期医療にリハビリテーションと栄養管理が適切に組み込まれている。直接慢性期医療に関わるわけではないが、当協会が以前より提唱している、急性期から転院してくるときに脱水、低栄養、拘縮、ADL低下などが過度に悪化していない状態で来てほしい、との希望が反映された改定内容である。
また、我々が以前から慢性期医療で取り組んできた「身体拘束をしない」「栄養管理を重視する」「どの段階の医療でもリハビリテーションが重要」「病院での介護福祉士の価値」などが、今改定で数多く取り上げられたことは非常に喜ばしいことである。
慢性期医療では、療養病床における医療区分の見直しがあった。処置や治療など医療資源の投入量により収益が変化する。治療が重視されたことはよかったが、一方では包括制度のよさ、たとえば必要な質に伴う量、マンパワー投入などの評価が考慮されていないと感じる。当協会は以前から「療養病床」を実態に合わせて「慢性期治療病棟」と銘打つことが適切であると提言している。
回復期リハビリテーション病棟では、体制強化加算の廃止が大きなインパクトを与えた。経営的なインパクトも大きかったが、リハビリテーション医療の質の面でも大きな損失ではないかと思われる。リハビリテーション病棟での医師の役割やチームリーダーとしての重要性が認められなかった。これは専従医師が配置されていることによる効果が見られなかったための評価であると思われる。効果が認められないことには点数はつかないという厳しい例だと思う。今後の反省材料である。
病院運営は今後さらに厳しくなる。地域の人たちに選ばれる病院、施設になることが生き残っていく最善の方法であり、質の向上をめざしつつ戦略を立てて運営を行わなければならない。医療・介護を取り巻く環境は絶えず変化しており、我々はそれを受け入れ進化しなければならない。変化を恐れずに、進歩と適応が必要である。
橋本康子(日本慢性期医療協会会長、千里リハビリテーション病院理事長)