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【識者の眼】「働くことの意味について(後編)」小豆畑丈夫

No.5226 (2024年06月22日発行) P.65

小豆畑丈夫 (青燈会小豆畑病院理事長・病院長)

登録日: 2024-05-29

最終更新日: 2024-05-29

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「働くことの意味」について、前編では、経済評論家の山崎元さんの「旧来の働き方は、自分の時間を売ってお金をえていたに過ぎない」という言葉(『経済評論家の父から息子への手紙』2024年、Gakken)と、日本の臨床心理学の創設者である河合隼雄先生が、「仕事で自分のたましいが癒やされてきた」という言葉(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』1998年、新潮文庫)、2つの異なる考え方をそれぞれの著書から紹介させていただいた。

私は40歳を過ぎた頃から、自分の人生に対する疑問が沸いてきて精神的に苦しくなる経験をしてきた。そんなときにひもとく本は決まって河合先生の本だった。この、河合先生と村上春樹さんの対談を読んだとき、「河合先生も思い悩んで苦しかったことがあったのか?」とまず驚いた。しかし、少し考えて自分の考えが馬鹿みたいに浅はかだったことに苦笑した。河合先生は苦しい心理を人一倍抱えていたからこそ、人を救うことができたのだ。自分を救う方法で人をたくさん救ってきたのだ。そして、人を助けることで自分も救われてきた、ということだろう。

私は医師を30年間やってきた。医学を懸命に学ぶことで科学的思考法を手に入れることができた。医療を通じて様々な人々(病める人も、そうでない人も)と本気で交わることで、科学ではどうにも解決できない「人が生きる意味」を考える機会を頂いた。そして、医師という仕事に多くの時間を費やすことで、大金持ちにはなれないけれど、私には自分のたましい(河合先生は魂という言葉が好きでなかった)が救済されている実感がある。

山崎さんはご自身の最後の著作で、息子さんへのメッセージとして、現代の経済のあり方に対応した労働の新しい基軸を易しい言葉で遺して下さった。そして、河合先生は変わらぬ「働くことの意味」を村上さんとの対談の中でさりげなく示して下さったのだと思う。

働くことの意味を考えるとき、1つの視点で考えると見誤る可能性があるのではないか? なぜなら、働くということには、収入を得ること、社会的役割を果たすこと、自分のたましいを癒やすこと、など、様々な意味が含まれているからだ。そして、それは人それぞれ違っていていいのだろう。多元的な視点で考えて、私は、自分の「働くことの意味」に納得したいと思った。

小豆畑丈夫(青燈会小豆畑病院理事長・病院長)[たましいの救済

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