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【識者の眼】「SNS型投資詐欺の現状」松﨑尊信

松﨑尊信 (国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)

登録日: 2024-06-18

最終更新日: 2024-06-18

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■「副業に興味ありますか」

詐欺にあった経験のある方はいますか。筆者は経験がなく、これからもないだろうと考えています。しかし、身近なところに詐欺の危険が隠れていることを最近経験しました。

ある日、当院に通院中の20歳代の男性患者が、母に伴われて受診されました。母によると、「1カ月前くらいから本人の様子が変わり、頻回に都内の繁華街に通うようになった。心配になり本人に状況を尋ねたところ、SNS上で〈副業に興味ありますか?〉というメッセージが送られてきた。気軽に返事をしたら、ある若者のグループとつながってメッセージをやりとりし、実際に会うようになった。当初は、将来の夢を語り合うなど明るい雰囲気だったが、最終的に仮想通貨に投資するため、消費者金融で借り入れさせられ、数十万円をグループに振り込んでしまった。警察にも相談したが、『SNSのやり取りだけではグループの所在もわからず、振り込んだお金も戻らないだろう』と言われた」という話でした。

■日本における投資詐欺の現状

警察庁によると、SNS型投資詐欺は、SNS等を通じて対面することなく、交信を重ねるなどして関係を深めて信用させ、投資金名目やその利益の出金手数料名目などで金銭等をだまし取る詐欺、と定義されています。また、SNS型ロマンス詐欺は、SNS等を通じて恋愛感情や親近感を抱かせて金銭等をだまし取る詐欺、と定義されています。2024年1〜3月の被害発生状況・検挙状況によると、SNS型投資詐欺は、認知件数および被害額ともに急増し、1件当たりの平均被害額は約1300万円、被害最高額は4億5000万円となっています1)。最近の報道でも、本年4月に茨城県内の70歳女性が約7億円、5月に兵庫県内の男性が約6億6000万円、神奈川県内の70歳代男性が約2億4000万円の詐欺被害にあうなど、大きな社会問題となっています。SNS型投資詐欺の被害者は男女ともに50〜60歳代で過半数、当初の接触手段はバナー等広告が約半数である一方、SNS型ロマンス詐欺はダイレクトメッセージが約6割で、詐取名目は投資が7割以上を占めるなど、投資詐欺とロマンス詐欺は目的が重なるところもあるようです。

これだけ被害が広がれば、被害者の中には私が普段診療しているような精神疾患を抱える方も含まれるかもしれません。インターネットは便利であるが故に私たちの生活になくてはならないインフラとなりましたが、SNSを利用した詐欺など新たな社会問題が出現しており、現在、国ではSNS型投資詐欺について対策を強化しようとしています。私たち自身も大切な資産を守るため、詐欺にあわないよう正しい知識、SNSを含めたメディアリテラシーを身につける必要があります。また、SNSを使いはじめた若年者、精神疾患を抱えるなど自分だけで対応することが困難な人、認知機能が低下した高齢者など、詐欺への対応力が十分でない方の予防・支援策も検討する必要があるかもしれません。

【文献】

1)警察庁:令和6年1月〜3月におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について.
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/sns-romance/sns-touroma20240516.pdf

松﨑尊信(国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)[SNS投資詐欺

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