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ナルコレプシー[私の治療]

No.5227 (2024年06月29日発行) P.45

本多 真 (東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野睡眠プロジェクトプロジェクトリーダー)

登録日: 2024-07-02

最終更新日: 2024-06-25

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  • ナルコレプシーの中核症状は,耐えがたい眠気で居眠りを反復する過眠症状と,大笑いや気持ちの高揚など強い感情の動きを契機に,ろれつが回らなくなる,膝が抜けるといった筋緊張が突然喪失する情動脱力発作である。発作中の意識は保たれることに留意する。13~14歳頃に居眠りの反復で発症し,その後,情動脱力発作が生じるのが一般的経過である。覚醒性のオレキシン神経系の変性消失が病態基盤で,覚醒維持困難が原因で居眠りの反復が生じる。オレキシン神経機能低下は,レム睡眠と覚醒の中間状態(寝ぼけ)を生じやすくするため,レム睡眠関連症状(情動脱力発作・睡眠麻痺など)の基盤も説明できる。

    ▶診断のポイント

    中枢性過眠症の診断は,終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で夜間睡眠妨害事象がないことを確認(除外診断)し,反復睡眠潜時検査(MSLT)での入眠潜時短縮で眠気が病的であることを示す。さらにPSG,MSLTで入眠後15分以内のレム睡眠出現(入眠時レム睡眠期)が複数回確認されることが診断基準である。情動脱力発作を伴うものをナルコレプシータイプ1(典型例),伴わないものをナルコレプシータイプ2(亜型)と分類する。ナルコレプシータイプ1では発症時点で既にオレキシン神経細胞の変性消失が進行していると考えられ,脳脊髄液(CSF)中のオレキシンA濃度異常低値も診断基準となっている1)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    中枢性過眠症には根治療法がなく,日常生活改善が治療目標となる。生活様式ごとに治療の必要性が変わり,生物学的な重症度とは必ずしも一致しない。非薬物療法として最も有効なのは,10~30分程度の短時間の計画的仮眠で,学校や職場の理解・配慮があると治療に役立つ。

    過眠症状に対しては中枢神経刺激薬を用いる。現在日本では3剤が処方可能であり,薬物選択は,効果と副作用,薬物半減期を考慮して行う。覚醒作用の強さは,メチルフェニデート>モダフィニル≧ペモリンとされ,半減期はメチルフェニデート4~5時間,ペモリン8~10時間,モダフィニル10~12時間と異なる。まず,作用時間が長く効果が穏やかなモダフィニルあるいはペモリンを朝服用させる。午後や夕方に薬効が落ちる場合もあり,その場合は昼食後に追加したり,メチルフェニデートへの変更・追加を行う。メチルフェニデートは半減期が短いため1日2回以上に分服するのが一般的で,研修・会議・試験など覚醒維持が重要な場面で頓服として用いる場合もある。重篤な副作用がない範囲で日常生活改善をめざして増薬する。

    レム睡眠関連症状(情動脱力発作と睡眠麻痺・入眠時幻覚)に対しては,レム睡眠抑制作用の強い抗うつ薬を用いる。三環系抗うつ薬のクロミプラミン(日本で保険適用あり)とSNRIのベンラファキシン(保険適用外)が最も効果が高い。クロミプラミンは半減期が21時間と長く,連用により単回投与でも持続的効果が期待できる。三環系抗うつ薬に共通した抗コリン作用(口渇・便秘・排尿障害・眼圧上昇)が問題になる場合は,副作用が少ないベンラファキシンを選択する。睡眠麻痺や入眠時幻覚など夜間睡眠障害が主訴である場合は就寝前に,情動脱力発作が主訴の場合は日中服用とする。

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