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【識者の眼】「『ケア中心社会』への変革を担うのは」小倉和也

No.5231 (2024年07月27日発行) P.63

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2024-07-16

最終更新日: 2024-07-16

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ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、人間の1万倍の知能を持つ「人工超知能(ASI)」が10年以内に実現する、との見方を示したことが話題になっている1)。人類20万年の歴史の中でその進化の担い手が人間から人工知能に変わる転換点に今我々はいるのだという。

ASIとロボットが結びついて、生産活動や家事・介護などの一部がそれらに担われることになれば、労働や医療・介護のあり方を含め社会が大きく変わりうる。倫理的な問題や、仕事を奪われる不安に関する議論が目につくが、そのような負の効用が前面に出るか、人間が人間らしい活動により多くの時間を使えることで、一人ひとりが幸福に生きられる共生社会の実現が近づくかは、制度や文化がその発展に追いつくことができるかどうかにかかっているだろう。

人間の労働がAIやロボットに置き換えられることが問題になるとしたら、それは資本主義の制度の問題と言える2)。置き換えられない、より人間的で価値の高い活動に人間が専念できるとすれば、それは人間同士が関わり合い育み合うことで、子どもから高齢者までの育成や自己実現を支援することを中心とした、より幸福度の高い社会の実現に結びつく可能性が十分にある。

そのためには、医療・介護・福祉・教育など「ケア」の社会的・文化的・経済的価値を高めた「ケア中心社会」への移行が必要になるだろう。

この点についても多様な議論がなされてきた。Eislerが論じているように、奴隷制や植民地に始まり、現代では南北問題や男女格差を背景に、これまでケアをより弱い立場の人に安く押しつけ、搾取しながらケアワークの価値を低く抑えてきたとすれば、その歴史をどのように克服できるか3)。人種や国籍、性別、その他様々な属性にかかわらず、一人ひとりが自分らしく生きられる社会に技術革新を結びつけられるのか。その変革を担うのは、AIではなく我々人間であることは間違いない。

【文献】

1)ロイター公式サイト:人工超知能10年で実現へ、人類の圧倒的進化に貢献=孫SBG会長.(2024年6月21日)
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/R3Y6FRCADVPLRDKAU44QCR45C4-2024-06-21/

2)JACOBIN 公式サイト:The Problem With AI Is Problem With Capitalism.(2023年3月24日)
https://jacobin.com/2023/03/ai-artificial-intelligence-art-chatgpt-jobs-capitalism

3)Eisler R:The Real Wealth of Nations:Creating a Caring Economics. Berrett-Koehler Publishers, 2007.

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[ASI][資本主義

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