2024年7月19日開催の厚生労働省薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会において、再生医療製品「ハートシート」の正式承認が否定された。ハートシートは2015年に重症心不全の適応で「条件及び期限つき承認」(以下、「条件つき承認」)を取得し、市販後の調査や臨床試験を通じて有効性と安全性を検証しながら、正式承認に向けた申請が求められていた。当初5年間の承認期間は、予定された症例数が集まらなかったため3年延長されたが、この間に集積された症例の有効性を解析した結果、「有効性は示されておらず、承認は適切ではない」と結論づけられた。
同部会では、ヒト肝細胞増殖因子遺伝子治療用製品「コラテジェン」の製造承認申請取り下げについても報告された。こちらも2019年に条件つき承認を受けたが、効果を明確に示すことができず、企業が自主的に製造承認申請を取り下げて薬事承認が失効となった。保険診療上の扱いについては、ハートシートは薬事審議会での結論を待ってからであるが、コラテジェンについては厚労省から保険診療上の使用を差し控える通知が発出されている。
今年に入り、条件つき承認を受けた製品が相次いで正式承認を見送られる事態が続いている。条件つき承認制度は、2014年の旧「薬事法」から「薬機法」への改正に伴い導入されたものであり、医療ニーズが高く、しかし臨床評価が困難な先駆的治療技術をより早い段階で臨床的に使用できるようにすることを目的としている。一方で、2015年に国際的な科学誌「Nature」から制度への批判があり、2018年にはハートシートの承認に対しても疑問が呈された。早期承認における有効性評価に関しては、日本よりも欧米で厳格に判断する傾向があり、今後、早期承認制度の国際的ハーモナイゼーションについて議論が必要である。しかし、条件つき承認制度による新技術開発の活性化やアクセスの向上が、今回の例で後退することは望ましくなく、早期承認の仕組み自体は否定されるべきではない。
一方で、Nature誌が指摘した「有効性が十分に示されていない治療に対する経済的負担が無駄になる可能性」については、検討の余地がある。確かに、これらについては、結果的に有効とは言えないものが保険でカバーされた。No.5218で述べたように、効果のエビデンスが十分でない医療技術を民間保険で使用することは慎重であるべきである。民間保険のもとでは対象患者が限られることになり、有効性に関する情報を得ることが困難になる可能性もあり、基本的に条件つき承認であっても保険でのカバーが必要である。
これらの問題に対処するために、リスクシェアリングの考え方を検討する余地があると考える。リスクシェアリングとは、効果(アウトカム)に応じて企業も負担(リスク)を負う考え方であり、最近では、米国で2024年に鎌状赤血球症に対する遺伝子治療のリスクシェアリングのパイロット研究が開始されるなど、欧米では広く導入されている。先駆的な治療技術の開発を阻害せず、経済的負担を分散するための仕組みが検討されるべきである。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[条件・期限つき承認]