ビッグデータとは単に標本数が大きいデータではない。標本数が大きいと精度が上がるだけで、DX時代に使われる「ビッグデータ」とは、これまで扱えなかったくらい大きなデータを扱うことにより、新たな知見が出ることを言う。
ターゲティング広告の事例の1つとして、インターネットで商品参照時のログデータを収集し、ニュースなどほかのページの広告に反映する手法がある。ログを保存するオブジェクトストレージやクラウドサーバ技術により、これまで保存されることのなかったログデータを蓄え、クラウドの仮想サーバで高速処理することが新しい機能をつくった。
医療分野でもスマートフォンを使った移動場所と加速度データを、院内のオーダリング情報と連携させることで、人工知能を使って行動履歴を解析保存し、看護師の行動業務を解析した研究がある。また、スマートフォンを使った移動場所と加速度データ、患者の記録を利用して双極性障害患者の日常生活データを記録する、技術的に類似の研究もある。これらはスマートフォンで得られるビッグデータとは言わないが、これまで得られなかった情報を使用した研究となる。
これらの事例から私が特に強調したいことは、「新しい情報(処理)技術が研究データを改変してきている」現状に、医学研究者が他人事のように関心が低いことである。数年前に開催された日本癌治療学会において、私は医療DXのシンポジストとして、鳥取県で進めている「おしどりネット」を紹介した。これは世界標準規格と仮想化技術を使った地域医療連携で、検査、処方、注射、カルテ文書、DICOM画像を各病院から自動でセンターに保存し、参照することを可能にしたものである〔現在はスマートフォンの4G回線で動画像も高速に参照し、スマートフォンから文書と画像を電子健康記録(electronic health record:EHR)に書き込める〕。
一方、大学のつくるデータベースは、関連病院の職員にがん治療患者のデータをWebから手入力させるものであり、私の発表には羨望の意見が寄せられた。現状のものは、調査研究の調査用紙を用いた研究をWebに入力したものである。研究の継続と精度、拡張、また、手入力の人的資源コストとミスの危険性を考えれば、オンラインでの自動入力をめざす時代である。カルテの文書や特別に取得したい情報がある場合は手入力のWeb入力を継続すればよいが、自動化できるところは自動化すべきである。
しかし、利用者は技術や標準規格を知らず、企業は競争のない囲い込みの中でセキュリティや最新技術の経験がない。これらの問題も、つまるところ医療システムの丸投げ契約に起因していると私は考えている。なお、慢性腎不全、糖尿病のJ-Dreamではオンライン化されたが、各学会の専門医制度のためのNCDでも検査、処方、注射などの項目はオンラインにして頂きたい。
近藤博史(日本遠隔医療学会会長、協和会協立記念病院院長)[ビッグデータ][医療システム]