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【識者の眼】「医療DX時代の『体系立てた医学研究基盤の戦略と教育の必要性』」近藤博史

近藤博史 (日本遠隔医療学会会長、協和会協立記念病院院長)

登録日: 2024-09-26

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「医療DX」は医療情報の単なるデジタル化ではない。新しいデータ統合による新たな知見が新たなエビデンスをもたらし、社会が変革する。これを実現するのは大量のデータを高速に扱えるクラウド技術であり、深層学習を実現したGPU技術などである。

伝票を手入力するこれまでの研究体制から、研究基盤自体が大きく変化しなければならない。医用画像のAI診断普及のため、「画像6兄弟」と呼ばれる関係6学会がそれぞれ、医用画像のデータベースを構築した。放射線画像では、画像は世界標準のDICOM規格を採用し、対応するテキストデータの診断レポートとともに保存されるようになった。データ収集の簡便化のためか、患者の同意を得ずに収集できるよう匿名化された画像と診断レポートのセットで集められている。

しかし、医用画像診断のAI研究の世界においては、診断レポートには誤診も含まれているため、病理診断でがんの診断に移行し、最近ではCTやMRIと同じ部分の病理画像の対比で、どの部分がどのようながんであるかといった画像上の比較が行われている。筆者も1993年に大阪大学病院において、アナログ画像から全面デジタル化するときに診断能の比較研究を行ったが、何を「正しい診断(ゴールドスタンダード)」とするかが重要であった。深層学習を用いる診断研究では、対象画像と正しい診断結果のセット(教師データ)をいかにつくるかが重要である。統計処理で有意差が得られるか否かと深層学習で高い診断能が可能になるかは似ており、どちらもデータに依存して結果が出ることから、対象データの分散が大きければ精度が下がる。内視鏡AI診断では、検査手技の異なる複数施設のデータよりも1施設のデータのほうが、精度がよかったという結果もある。

臨床医から血液検査、症状データが加わると診断能は上がるだろう。さらに、がんの診断では1カ月前の検査で診断可能か、化学療法の効果の予測は可能かなど、研究テーマは尽きない。このような利用には全診療データをセットすることでデータベース化するほうが将来性はあったが、匿名化されているので今更加えられない。一方、最近の研究では母集団を大きくするために多施設のデータを集めることが求められ、施設間の診療の手技等(手術手技、術後の検査日、投薬後の検査日等)の違いを少なくさせる必要がある。

北米放射線学会(Radiological Society of North America:RSNA)では、2016年以降の深層学習教育と同じころ始まったQIBA(Quantitative Imaging Biomarker Alliance)において、ベンダー間の画像データの差を検討し、診断レポートも学会のテンプレート等を用いた統一化を進めている。

日本のNCD(National Clinical Database)では、Web入力ではあるが検査結果は数値ではなく、正常・過大・過小など人の判断の入力である。一方、2010年から地域医療連携のために必須のSS-MIXでは、検査コード、基準値、単位が自動的に標準形式でオンライン出力される状況であるが、あまり利用されていないのが実状だ。医療DX時代の医学研究には、医療機関の診療の標準化やオンライン出力可能な情報リスト、オンライン化できるものとできないものの出力の方法、セキュアな通信基盤など体系立てた基盤整備の戦略とその教育が必要である。

近藤博史(日本遠隔医療学会会長、協和会協立記念病院院長)[医療DX][デジタル化]

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