昨今、様々な場面でその事象が真実なのか、偽りなのか、その判断で話題になることがあります。私自身は医学(の一部)しか勉強してきていないので、一般化することはできませんが、今までの経験からこの真と偽についてお話しをしてみたいと思います。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時のお話しを例にしたいと思います。COVID-19が蔓延して東京はその対策が遅れていることから手遅れに近い、2週間後にはニューヨークのような悲惨な状況になる! このような言葉に聞き覚えのある先生方もいらっしゃると思います。2020年4月頃、主に大手テレビ局に登場された先生方がコメントされていた印象的な言葉です。
では、その後東京はニューヨークのような死者数になったのでしょうか? 答えはNOです。なぜでしょうか? 私はCOVID-19第1波に東京の最前線で治療を行っていましたので、その答えを知っていました。そうならない、と。
当時のニューヨークでは低所得者層に広く蔓延していたのに対して、東京でのCOVID-19第1波の患者は、主に港区、中央区、千代田区在住の比較的所得の高い地域を中心に広がっていました。東京もニューヨークみたいに感染が広がってしまうとそれは大変なことになることを社会啓発する必要があるため、論文報告をしました1)。
ここで言えることは医療の答えはやはり日常診療の中に、現場に、患者さんに、その答えがあるということが言えると思います。最前線の情報に真実がある、ということでしょうか。
では、アカデミアではいかがでしょうか? アカデミアでの真と偽、これは難しいと思いますが経験から言えることもあります。たとえば、プラセボ効果がほとんどないRCTなどは信用度が下がります。具体的には、RCTで対照群にプラセボが投与されている場合には、通常10〜15%程度の効果を示します。民間療法で効果を示した! みたいな新聞広告などもこのプラセボ効果に近いです。このプラセボ効果が極端に低い、ゼロに近いような研究を見ると何か特殊な環境設定なのかなと思えてします。現実的な結果は理論ほどクリアな結果は得られないためクリアな結果には注意を要する、ということでしょうか。
このように真と偽の判断は難しく、さらにそれを専門外の人たちが限られた条件で判断することは非常に困難だと思います。福沢諭吉先生が物事の本質を見抜くのが学問であると説かれていますが、この令和の時代でさらに学問の重要性が高まっていると言えます。
【文献】
1)Hifumi T, et al:Crit Care Explor. 2020;2(9):e0221.
一二三 亨(聖路加国際病院救急科医長)[物事の本質][学問の重要性]