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【識者の眼】「根拠に基づく事務仕事」岩田健太郎

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2025-03-06

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娘のマイナンバーカードを更新せよ、という要請が来たので手続きをした後、カードを取りに行った。

「娘さんの生年月日を示すものを出して下さい」

「(古い)マイナンバーカードでよいですか」

「はい、よいですよ。それと、もう1つ、生年月日を示すものが必要です」

「もう1つ? たとえば?」

「健康保険証とか」

私は吹き出すべきか、怒り出すべきかちょっと迷ってからどちらも諦めて尋ねた。

「マイナンバーカードがあれば生年月日の確認は取れるでしょう。なんでもう1枚必要なんです(マイナンバーカードが間違ってる、とでも?)」

「さー、国が決めたことなので」

これ以上は時間の無駄と諦めて私は帰宅し、後日改めてマイナンバーカードと健康保険証を携えて区役所に行った。マイナ保険証が使えるようになったので、もう要らないものと思っていたが、捨てなくてよかった。

なんと新しいカードを受け取る際に、「書類仕事」が必要だった。紙に娘の住所氏名、電話番号、そしてマイナンバーを書き写せというのだ。

「これ書き写すことに、意味あります?」

と聞きたくなったが、これも時間の無駄なので止めた。

小さい頃からこまっしゃくれていて、根拠がないことを強要されるのが大嫌いだ。なぜ、それが必要なのか。それをすることでどういう利得があるのか。利得は、アウトカムと言ってもよろしい。無意味だとわかっていることをやらされるのは死ぬほど嫌いだった。そして昭和の時代に、そういう無意味は四方八方に遍在していた。

DX化が理念のマイナンバーカードでペーパーワークがもれなくついてくるこの皮肉。最新のビームライフルを渡され「これで相手をぶん殴れ」と言われるようなものだ。マイナンバーカード周りの運用はクソ下手すぎる。

根拠に基づく医療と言われて久しい。根拠に基づく書類仕事をお願いしたい。その記載事項は必要なのか。ないと用が片づかないのか。それとも、ネチネチあれこれ書かせることで、「仕事したフリ」ができるだけなのか。サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ、人口増加の高度成長期ならともかく、人口減少のこの時代にどんどん生産性を下げて、周辺国から置いてけぼりを食っててなにが楽しいのか。

某役所関係にパワポを頼まれ、すっきりわかりやすくつくったら「もっとゴチャゴチャ書け」と「指導」されたことがある。業腹だったのでグローバルだのサステイナブルだの意味のない空語を適当に詰め込んだらOKがでた。まるでソーカル事件である。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[根拠マイナンバーカード生産性

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