田妻 進 (JR広島病院理事長・病院長、日本病院総合診療医学会理事長)
登録日: 2025-03-06
前稿(No.5263)では、『地域医療構想と日本版ホスピタリスト』のタイトルのもとに、社会的課題である“地域医療構想”を推進する際の“日本版ホスピタリスト”の必要性や利活用の在り方について、持論を紹介させていただきました。本稿では、VUCA時代の医療制度における有用なピースとして期待されるホスピタリストとはどのような医師像として描かれるものなのか、プライマリ・ケアの現状をもとに考察します。
プライマリ・ケアの実態については定説があり、報告によりますと、①一般市民の健康問題は1カ月間に80%、②医療機関への受診を検討するのは33%、③実際に受療行動を起こすのは22%、④救急外来の受診は1.3%、⑤入院となるものは0.8%、⑥大学病院などの高度な医療機関に紹介受診(あるいは入院)は実に0.1%、とされています1)。同様の調査研究が約50年前に行われていたのですが、結果はほぼ同等で、時代や地域、保険制度に大きく影響されることのない普遍的な一般市民の受療行動と考えられます。
その実態をもとに、プライマリ・ケアの現場における医療者側の役割分担を医療者の持ち場別に当てはめてみます。すると、上記③に対応するのは主に『かかりつけ医』ですが、医療機関へのフリーアクセスを特徴とするわが国では④と⑤に加えて、③についてもホスピタリストが対応、そして⑥は文字通り大学病院などの高度医療機関に在籍する高度技能医あるいはその医師団、という構図になるのでしょう。
わが国の医師数(2022年厚生労働省集計)は、約34万人で、病院勤務医は約22万人、そのうち大学病院などの医育機関に勤務する医師は約5.9万人となります。なので、上記の分担を単純に比例計算すると、医育機関を除く病院勤務医の負担が相対的に大きく、さらに各診療領域で専門分化が進んだ現状では、約50年前と比較するとその質的かつ量的負担の実態は計りしれないものになりつつあると言えます。
社会が専門分化による診療の進化・深化を望む一方で、日常の診療への即応(断らない救急や専門外という不応需を容認しない)も求めるとすれば、総合内科的・総合診療的ホスピタリストの登場こそ、蓋然性の高い社会的ニーズとも言えます。
ただし先行する米国型ホスピタリストがそのまま日本の医療制度に適用できるとは言い切れず、日本版ホスピタリストの在り様について、診療現場の実状に基づいて戦略的に制度設計することが必要と思われます。本連載の続報として、順次その具体案を紹介してまいります。
【文献】
1)Green LA, et al:N Engl J Med. 2001;344(26):2021-5.
田妻 進(JR広島病院理事長・病院長、日本病院総合診療医学会理事長)[地域医療構想][ホスピタリスト]