手術後の女性患者に対し乳首をなめるなどのわいせつな行為をしたとして医師が準強制わいせつ罪に問われた事件の差し戻し控訴審で、東京高裁は3月12日、無罪を言い渡した。被告の関根進医師は判決後の記者会見で、「警察と検察に対して強い憤りを感じる」などとするコメントを発表した。
関根医師は、外科医として勤務していた柳原病院(東京・足立区)で2016年5月に女性患者Aの右乳腺腫瘍摘出手術を担当。手術後、抗拒不能に乗じて、ベッドに横たわるAに対し左乳首をなめるなどのわいせつな行為をした疑いで同年8月に逮捕、9月に起訴された。
2019年2月の第1審判決で東京地裁は「Aは麻酔薬を使用した手術後のせん妄に伴う幻覚を体験していた可能性がある」「(科捜研が行った)アミラーゼ鑑定、DNA型鑑定の結果などもAの証言の信用性を補強する証明力を有しない」として、被告に無罪を言い渡した。
検察側の控訴を受け、2020年7月に行われた控訴審判決で東京高裁は、せん妄に伴う幻覚を体験した可能性を否定し、無罪判決を破棄、懲役2年の有罪判決を言い渡した。 しかし最高裁は2022年2月、高裁の判決には「審理不尽の違法がある」として有罪判決を破棄し、審理を差し戻した。
差し戻し控訴審で東京高裁は、無罪とした第1審判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。
判決後のコメントで関根医師は「裁判の結果は当然であり何の疑いもない」としながら、警察と検察を「片方の言い分を過剰に信じ、客観的なものの見方ができない、一度決めたら振り返りや修正をすることのない組織。これらに私の生活や仕事、家族を奪われた」と強く批判。
「(長期間にわたる身柄拘束などの)人権侵害を問題としない」裁判所の態度や、「中身をよく吟味せずに衝撃度の強い情報を垂れ流す」マスコミのやり方も「大きな問題」と指摘し、「医療の不確実性を前提に医療者側も患者側も守られる仕組みづくりが必要」と訴えた。
被告側の弁護団(高野隆主任弁護人)は「医師は、職業上、人体との接触が避けられない」とし、「不当な有罪判決や遅すぎる無罪判決が今後も繰り返されることを強い危惧する」とコメントしている。
逮捕~裁判の経過
2016年5月 右乳腺腫瘍摘出手術後、女性患者Aが「医師に乳首をなめられた」と訴え、知人が通報
2016年8月 関根医師逮捕、拘留決定
2016年9月 起訴
2016年11月 第1回公判
2016年12月 保釈
2019年2月 東京地裁が無罪判決
2020年7月 東京高裁が有罪判決(懲役2年)
2022年2月 最高裁が審理を高裁に差し戻し
2025年3月 差し戻し控訴審で東京高裁が無罪判決