エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOは3月25日、本社で開いた記者懇談会でアルツハイマー病(AD)治療薬レケンビ(一般名:レカネマブ)について、皮下注の自己注射製剤(SC-AI)と血液バイオマーカー(BBM)の活用を軸にかかりつけ医と専門医の連携体制を構築することで、さらなる普及を図る方針を示した。
皮下注製剤については現在米国FDAへ承認を申請しており8月末日までに可否が出る見込み。国内でも承認申請に向けた準備を進めているという。内藤CEOは「承認されれば全治療期間で在宅・在所投与が可能になり、通院の手間と医療機関による点滴業務の負担を大幅に削減できる」と強調した。
血液バイオマーカーは25年度中のIVD承認を見込んでおり、米国アルツハイマー協会のガイドライン発出とあわせ、確認試験への実用化に期待感を示した。従来アミロイドPET・脳脊髄液(CSF)検査といった重装備の医療技術に依存していた診断・治療パスウェイを軽量化・一般化し、かかりつけ医との連携体制を構築することで市場拡大を加速する狙いだ。
国内の普及状況については、現時点で初期導入施設が約700施設、フォローアップ施設が約1200施設で今後も拡大予定と説明。初期導入施設からフォローアップ施設へ移行する連携体制についても順調に拡大していると述べた。
内藤CEOは同剤と日本イーライリリーのAD治療薬ケサンラ(一般名:ドナネマブ)との使い分けについて「症例数に圧倒的な差がある。早期に承認されたレケンビは医師に浸透し、既に使い慣れた薬剤になっている」と述べ、早期の投与開始や長期投与に関する治療効果・安全性が確認されていることからも「レケンビがAD治療のゴールドスタンダードを担っていく」と強気の姿勢を見せた。
代表執行役CEO内藤晴夫氏
会見に登壇した内藤景介代表執行役専務COOは、同剤の売上収益について「27年度を大きなマイルストンとして捉え、グローバルで2500~2800億円を想定している」と説明。同社が設定した32年度に連結売上が2兆円を超えるというシナリオに向けて収益構造の改革を行う方向性を示した。組織体制の見直しやシステムの標準化といった取り組みを通じたコスト削減は年間約300億円を見込み、「27年度には一時金収入に依存しない利益体質への転換を果たす」と語った。
米トランプ政権の米国第一主義政策において、輸入医薬品への追加関税など懸念の声があがったが、「レケンビはスイスの工場で製造しており、追加関税の対象にはならないと理解している」と見解を示し、引き続き現地スタッフによる情報収集と当局への働きかけを強化すると語った。
内藤CEOはトップ交代の予定についても言及し、既に16回にわたり取締役会へ継承プランを提出していることを明かした。「自分と並走する期間を十分に取りながら円滑なサクセッション(継承)を図り、大幅な若返りを実現したい」と述べた。
代表執行役専務COO(兼)チーフグロースオフィサー内藤景介氏