編著: | 石川秀雄(岸和田リハビリテーション病院長/喀血・肺循環センター長) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 252頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2025年03月21日 |
ISBN: | 978-4-7849-0522-5 |
版数: | 初版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
・喀血に対するカテーテル治療である気管支動脈塞栓術(BAE)を累計3,800例以上経験し,最新のエビデンスを世界に向けて発信しつづける喀血治療の第一人者,石川秀雄先生を編者に迎え制作した喀血治療の完全ガイド!
・石川秀雄先生ほか,喀血治療を専門とするエキスパートたちが,自身の経験に基づきBAEのテクニックと極意を余すことなく語っています。
・ほかでは読めない,実践におけるテクニックやコツ,経験談など貴重な話題が満載。
・「喀血診療指針」と合わせてお読み下さい。
1章 喀血について
1 喀血の基礎疾患
2 喀血の大分類と重症度分類
3 わが国の「喀血診療指針」の概要
2章 BAEの基本知識
1 BAEとssBACEの歴史
2 BAEの重要なエビデンス
3 ssBACEの治療成績
4 喀血関連血管の血管解剖(気管支動脈とNBSA)
5 主なBAEガイドライン概要
6 肺葉と喀血関連血管の関係
7 再喀血のメカニズム
8 BAEとQOL
9 コイル留置後のMRIは可能か?
3章 BAEのテクニックと手技
A 動脈穿刺テクニック
1 大腿動脈穿刺
2 橈骨動脈穿刺
3 エコー好き麻酔科医によるエコー下橈骨動脈穿刺テクニック
B ガイディングカテーテルの種類とテクニック
1 当院で使用しているカテーテル
2 基本的なテクニック・戦略
C ガイディングカテーテル
D コイル
E マイクロカテーテル
4章 塞栓用コイルおよびその他のデバイス―特徴と活用法
A なぜコイルか?
B Pushable coil
1 Nester®
2 Hiral®
3 C-stopper®コイル
C Detachable Coil
1 Azur®
2 Target
3 ED coil,i-ED coil
4 IDC™/Embold™
D 当院で使用しているその他のデバイス
5章 BAEのトラブルシューティング
1 動脈穿孔のベイルアウト
2 縦隔血腫内コイル留置
3 脱落/逸脱コイル回収
4 外れたガイディングカテーテルのリカバリー
6章 画像診断
1 BAE術前検査のCTA(CTBA)
2 CTBAレポートのコンセプト
3 CT like imageの活用
7章 BAE前後のフロー
A 初診からBAEフォロー終了まで:喀血・肺循環センター運営課長(事務職)の視点より
B 他職種からの支援
1 BAEのパス
2 BAEの看護
3 BAEと薬剤
4 BAEと保険診療
8章 BAEの合併症
1 合併症総論
2 脳梗塞
3 大動脈解離
4 縦隔血腫
5 脊髄梗塞
9章 その他のトピック
1 気管支動脈瘤
2 気管支鏡は喀血/BAEにとって有用か?
3 BAE無効例への肺動脈塞栓術
序文
1998年にNHO近畿中央胸部疾患センター(当時,以下「近中」)でBAEに着手してから27年が経過した。当時はPCIのほうがずっと面白く,BAEは渋々やっていたのだが,気がつくとライフワークになっていた。私自身はもともと循環器専門医であるが,近中で循環器科医長を務めながらびまん性肺疾患・抗酸菌症・肺癌などのカンファレンスに参加しているうちに自然と呼吸器領域の知識が増えて呼吸器専門医試験もあっさり通ったという“なんちゃって”呼吸器専門医なのだが,その特殊な背景がカテーテル系呼吸器インターベンションをsubspecialityとする呼吸器専門医という独自の立ち位置を形成してくれた。
BAEの技術書などはなかったので,自己流で試行錯誤の連続であった。CTアンギオもなく,また最初のdetachable coilであるIDC®導入前であったので小さなpushable coilでちまちまと詰めざるを得ず,4.1±2.5時間もかかっていた。しかもこれだけ時間をかけてカテをしても,圧迫止血中にカテ台の上で大量喀血されたりして,BAEは成績も悪く時間のかかる非常に徒労感の強いカテであった。
この苦行を続けることができたのは,呼吸器専門病院の中の循環器科医長としての院内ニーズへの使命感からであった。しかし症例を重ねるうちにBAE後の喀血患者さんから心底の感謝の言葉をいただけるようになり,同時に他院の呼吸器内科医からもご紹介いただけるようになり,そこからモチベーションが生じるポジティブなサイクルに切り替わってきた。一番大きかったのは近畿大学医学部堺病院の呼吸器内科教授(当時) 長坂行雄先生が我々の仕事を初期から高く評価して下さり,ACCP日本部会の学術講演会で伊藤春海教授,澤 芳樹教授,宮澤輝臣教授などの超ビッグネームの教授陣と並んで講演させていただくなど,数々のチャンスをいただいたことである。長坂先生のご恩に応えるべく,この治療を世界に普及させなければというのが最大のモチベーションになった。喀血患者さんがいかに苦しんでおられ,BAEによって救われるかというClinical Questionを臨床研究のテーマとしたのが我々のQOL論文である。
この書籍のプランを日本医事新報社の担当編集者 立林りあさんからいただいたときに,即座に頭に浮かんだのは,故・光藤和明先生の「PTCAテクニック第2版」(医学書院)である。PCIを学ぶために文字通り擦り切れるほど読み込んだが,その技術や思想の一部が私のBAEテクニックに大きく影響しているものと思われる。私が27年間にわたって開発・蓄積してきた技術と思想を本書に惜しみなく盛り込んだ。BAEは国際的に喀血の標準治療と認められているにもかかわらず,実臨床ではBAE先進国のわが国でもBAE適応である喀血入院患者の1割未満,米仏では4%程度しか実施されていない。その一番大きな理由は術者不足と合併症としての脊髄梗塞への恐怖である。しかしCIRSEのBAEガイドラインには,コイルによるBAE(ssBACE)は,脊髄梗塞を起こしにくいと明記されている。基本的にssBACEのみ実施している我々の施設では脊髄梗塞が累計3,800例中ゼロであるし,NHO東京病院も1,000例以上実施する中で皆無である。また,原理的にssBACEは脊髄梗塞を起こさないと私は考えている。残る解決すべき問題は術者不足である。本書執筆の動機はここにある。本書により,今後多くのssBACE術者が育っていかれることを心より願う。
謝辞:黎明期から20年以上にわたってssBACE普及の夢を共有し,生涯を喀血治療に捧げてきた同志,喀血・肺循環センター運営課長 北口和志氏にまず感謝の言葉を申し上げたい。近中時代から国立療養所富士病院を皮切りにあちこちの病院への出張カテ,オリジナルカテやテクニックの開発をともにこなし,喀血・肺循環センター立ち上げ時期のほぼ同月に大動脈解離を2例連続で起こしてしまった苦しい時期など,辛酸と感動のすべてを共有した。彼なくして我々の喀血・肺循環センターは成立困難であった。
また,我々の病院が急性期病棟も有するケアミックス病院から回復期リハビリテーション専門病院に移行していく中,正反対な性格の喀血・肺循環センターの共存というはなはだ困難な挑戦をお認めいただき,これまで温かくご支援くださった生和会グループ白川重雄会長,医療法人せいわ会/えいしん会 福澤正洋理事長(大阪大学名誉教授,大阪母子医療センター名誉総長),生和会グループ白川雲将副会長に心より感謝申し上げます。さらに,CTアンギオ解析やBAEにおいて常にプロフェッショナルな技術で術者を全力でサポートしてくださってきた放射線科 服部智明技師長,向井大起さん,永野敦士さん,人工呼吸器を装着したまま急性期病院から救急車で搬送されてくる重症喀血患者さんの緊急カテも快く受け入れ,カテ室や病棟でBAEを強力にサポートしてくれる七野明子看護部長を筆頭とする看護部の皆様,3~6カ月という回復期リハ患者さんの長いスパンの入退院の隙間に2泊3日のBAE入院患者さんを常に満床状態の中で入れ込むという奇跡的なベッドコントロールをしてくださっている岡田孝司地域医療部長,事務部トップとして常に喀血・肺循環センターを側面から支援してくださる小林克也エリア長,西川忠邦事務長,臨床研究データ蓄積や整理などにおいて信頼性の高い仕事ぶりで支えてくださっている医療秘書 陽本美穂子主任と山本由美子さん,AKI対策やアナフィラキシー対策などをしてくださる中井祐士部長を筆頭とする薬剤科の皆様,ポリグラフの操作や血管エコーや6分間歩行試験などで貢献してくださった藤原真由美主任をはじめとする臨床検査科の皆様に感謝申し上げます。
私の臨床研究上のメンターである原 正彦先生(mediVR代表取締役社長)と,我々の仕事を色々なところでご抜擢くださっている杏林大学 皿谷 健教授,当院喀血・肺循環センターで修行されてきた歴代術者 山口 悠先生,西原 昂先生,龍華美咲先生,國定慶太先生,中谷孝造先生,そして本書や多くの論文執筆をサポートし応援してくれた妻 由希子と 娘 茉子,1年以上にわたる執筆作業中に私の執筆意図を的確に読みとり粘り強くサポートしてくださった日本医事新報社 立林りあさん,コイルメーカーとして我々の臨床研究活動や広報活動を力強くご支援くださっているテルモ株式会社 丹波光博事業部長,日本ストライカー株式会社 中嶋 玲マーケティングマネージャー(当時Boston Scientific Japan),喀血・血管インターベンション研究会を長年にわたって開催してくださっている日本ストライカー株式会社に心より感謝申し上げます。この研究会には日本を代表する多数のssBACE術者/研究者が集まっていますが,その中でも西原 昂先生は,高いカテーテル技術,喀血/BAEに対する深い洞察と思想,それに裏付けられた高度な臨床研究マインドと執筆力が一際高く,日本と世界の喀血/BAEの未来を牽引していく逸材として大いに期待しています。
末筆になりましたが,本書を天空の森/忘れの里 雅叙苑/田島本館 ボス田島健夫社長に捧げます。世界一,唯一無二のリゾート開発という夢と理想を生涯追い続け,既に独自の素晴らしい世界を構築されながらも,未来構想についていまだ情熱的に火傷しそうなくらい熱く語り続ける人生とプロフェッションの愛すべき師匠,リゾート・喀血とジャンルは違えど,常にボス田島から前に進むための強力なエネルギーをいただいてまいりました。
本書をお読みいただくにあたって,まずは以下のテルモ株式会社の動画「慢性反復性喀血治療に対するBAE(気管支動脈塞栓術)について」をご覧いただけたら幸いである。
テルモ株式会社:BAE(気管支動脈塞栓術)特設ページ
https://crmjapan.terumo.co.jp/medical/event/bae/?utm_source=cong&utm_medium=display&utm_campaign=2406bae-jsre_aws_jp_all&utm_content=jp__survey&utm_term=tis-io
2025年2月
岸和田リハビリテーション病院長/喀血・肺循環センター長 石川秀雄