▼厚生労働省が医療法人の分割を可能とする制度案を示した。分割規定の導入は、6月に閣議決定された成長戦略で、「効率的で質の高いサービス提供体制」の確立に向けた策として盛り込まれた。政府は年内に結論を得るとともに、検討結果に基づき速やかに法改正などの措置を講じるとしており、今後制度設計についての議論が急速に進むことが予想される。
▼現在の医療法には、医療法人の合併に関する規定はあるが、分割に関する明確な規定はない。そのため、複数の病院を経営する医療法人が傘下の1病院の事業だけを切り離したいと考えた場合には、別法人を開設し、そこに事業を売却するという形をとることになるが、その手続きは非常に煩雑だ。
▼切り離す病院は書面上いったん廃止にしなければならず、病院の廃止届を出すと同時に、引き継ぎ先の医療法人が病院の開設届を都道府県に提出する必要がある。引き継ぎ先は病院を新規開設することになるため、医療審議会の認可を得なければならない。申請時期によっては、医療審議会がなかなか開催されず、認可に時間を要する可能性がある。債権者による個別承諾や、職員との雇用契約が承継されないなどの問題もある。
▼一方、厚労省が提示した制度案では、株式会社など他の法人と同様、分割前の法人の権利義務が承継される。債権者の個別承諾は不要。職員との雇用契約も元の法人から分割先に引き継がれるので、契約を結び直す必要もない。手続きが大幅に簡素化されるという点では、画期的と言える。組織再編を考える大規模医療法人にとっては、合併、持分譲渡、売却による事業譲渡以外に、新たな選択肢が加わる。
▼ただし、分割制度の対象は持分なし法人のみ。全国に約5万ある医療法人のうち4万以上を占める持分あり法人は対象外だ。持分なし法人でも、常勤医師が1人の「一人医師法人」では診療所を1つしか持っていないのでそもそも分割できず、有効な事業譲渡の選択肢が増えるわけではない。厚労省は制度を活用できるのは1000法人程度になると見込んでおり、非常に限定的だ。
▼分割制度の導入そのものは画期的だが、地域で病院・診療所を経営する大多数の医療法人にとっては、意義が薄く縁遠い存在となりそうだ。この規定で政府が思い描くような「効率的で質の高いサービス提供体制」の確立に繋がるかどうかについては、疑問と言わざるをえない。