アメリカを舞台とした、1人でさまよい続ける少年の目に映じたもの、それは何か。そして、少年の夢とは、理想の大人になるには(J.D. Salinger 著、米国リトル・ブラウン社、1951年刊)
欺瞞に満ちた大人に反発し、行き場のない孤独と怒りを裡(うち)に抱えた16歳の少年を描いた本作は、私が大学生だった1970年代の若者に大きな共感を呼んだ。私がスポーツを熱心にやっていたときにこの本に出合ったが、まったく共感できなかった。女子高生の間に私のファンクラブができていて、試合では黄色い声で応援してもらっていた。スポーツは私の密かな自信になっていた。だから主人公のホールデンとは真逆の健全すぎる屈託のない恵まれた学生で、彼の嫌いなタイプで、嫌なやつだったに違いない。
精神科に入局した私は、同期に対して劣等感を覚えた。とにかくあまり患者の話を聞くのが得意でないのである。研修医のときに救命救急センターにローテートしていなければ外科系に転科していたかもしれない。以来私が精神科に向いてないな、と思うことは度々あった。
残り341文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する