世田谷区では、行政・地区医師会・介護事業所など関係者が、早くから認知症患者への「アウトリーチ」の重要性を揃って認識していた。2012年には初期集中支援サービスに関する研究事業が開始。翌年にはモデル事業に格上げされ、そこでの成果は政府の新オレンジプランにも反映された。初期集中支援の成果と、全国普及に向けた課題を、桜新町アーバンクリニックと区の担当者の話から探った。
人口87.8万人、高齢化率20%の世田谷区では、地域包括支援センター(包括)で認知症専門の相談員がもの忘れ相談を行うなど、包括が認知症支援の「入口」を担っている。初期集中支援の対象となるのは、包括で「早期対応が必要」と判定された事例が多い。具体的には、本人にあまり病識がなく、医療・介護いずれの支援も受けていない高齢者だ。
訪問診療に力を入れている桜新町アーバンクリニックは2012年、国の研究事業の実施主体に手挙げした。院長の遠矢純一郎氏は、「在宅経験は豊富でしたが、チームで認知症支援をどこまでやれるかという挑戦も兼ねてやってみようと思いました」と話す。
2012年度には10例、モデル事業となった13、14年度はそれぞれ40例以上の訪問支援を行い、うち8割をサービスの介入につなげることができたという。
桜新町アーバンクリニックの初期集中支援の流れ(右頁図1)はこうだ。まず対象者宅にチームの看護師と作業療法士(OT)が包括職員と共に訪問し、病態、既往歴、家族背景、生活の自立度などについて聴き取りを行う。
看護師たちが集めた情報を基に支援目標や支援方針を検討する場が「チーム員会議」だ。6カ月の期間中に1例につき3回開かれる。看護師、OTなどの専門職、認知症サポート医の遠矢氏、精神科専門医、包括職員などが参加し、各員が専門的視点から意見を出し合う。1例当たり10分程度で15~20例を検討する。
初回会議の要は、認知症かどうかの診立てと支援の方針決定。精神科専門医は、認知症と他疾患を鑑別した上で、認知症であればどのタイプかを判断。レビー小体型であれば、今後現れる可能性が高いパーキンソン症状に備えたケアや家族への説明方法を助言する。
内科医の遠矢氏は内科的視点から発言する。何も薬を飲んでいない患者でも、既往歴に着目し、現在の病状を類推して医療介入の要否を判断する。
こうして決まった支援方針に沿って、看護師たちが訪問支援を1~2カ月継続。生活障害の程度、症状の進行度を見極める。患者の表情を和らげる言葉遣いなど、訪問を重ねる中で得た“気づき”もチームで共有する。
2回目の中間会議で支援方針に修正を加え、再び訪問支援へ。期間終了前の最終会議で支援の総括を行う。これ以降の支援を担う包括職員やケアマネジャーたちへの引継ぎ資料として、これまでの支援で集めた詳細な情報を「ケアサマリー」に書き込んでいく。
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