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選択肢が増えることは善いのか? [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.23

下田和孝 (獨協医科大学精神神経医学講座主任教授)

登録日: 2017-01-01

最終更新日: 2016-12-27

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母校・滋賀医科大学を卒業したのは1983年であるから、卒後34年が経過しようとしている。この間にPCのスペックは飛躍的に向上、インターネットが普及し、スマートフォンさえあれば、大抵のことができるようになった。論文作成の際の作図や統計解析に苦労したことや文献検索で図書館にこもりっきりになったことなど今や昔である。

この間の最も大きな変革は2004年度から実施された新臨床研修制度の導入であろう。加えて、マッチング制度の導入によって、それまでは研修先の定番が大学であったのが、大学のみにとらわれず研修先を考慮できるようになり、選択肢が増えた。

一方、大学の卒後教育で研究活動を軽視するようになった。大学院進学者数が減り、それに対して、社会人大学院制度が導入された。大学スタッフや病院医師として勤務しながら、大学院生としても研究活動ができるのである。小生の大学院時代には、大学スタッフや病院医師としての勤務はできず、収入は週1回のアルバイトのみであった。社会人大学院制度の導入は「選択肢の増加」であり、「制度の寛容化」「不便さの解消」である。

「選択肢の増加は善」と思いがちである。しかし、昨今、マーケティングの領域では「選択肢過多(choice overload)」という概念がある。選択肢が増えると購買意欲が減退するというのだ。選択肢が多くなると、a)現状を維持することに傾きやすい(決断を先送りする)、b)選択肢に優劣をつけることができず、他者の意見などに流されやすくなる、c)選択の結果に満足しない(他の選択をすれば、さらに良い結果だったと考える)のである。

つまり、大学病院の研修医が減るのも、研修後の研究志向者が減るのも、選択肢過多、情報過多の影響、不便さの解消によるものだとも思える。留学を選択する者が減っているのも、わざわざ言葉の通じにくい、習慣の違うところに身を置かなくても情報はいくらでも入ってくることと無関係ではないであろう。

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