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新生児マススクリーニング:tax eaterをtax payerに変える事業[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.85

山口清次 (島根大学小児科特任教授・日本マススクリーニング学会理事長)

登録日: 2018-01-06

最終更新日: 2017-12-20

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わが国では「新生児マススクリーニング事業」(newborn screening:NBS)が、40年前から行われている。知らずに放置すると障害の起こるような代謝異常症を、発症前に見つけて小児の障害発生を予防するものである。1960年頃に米国のガスリー博士が発明し、健康な新生児全員を対象にスクリーニングしたのが始まりである。

がん検診、成人病検診、乳幼児健診など予防医学の重要性は広く認識されている。一方、公的事業として行うには、費用対効果が求められる。検査費用が高すぎたり、身体的負担が大きすぎたり、予後にあまり影響がないものは対象とならない。またNBSは、本来の病気の症状が出ないように、発見された人を生涯にわたってサポートする事業である。新生児期に行われる検査が出発点ではあるが、「新生児健診」とは意味合いが異なる。

NBSで見つかる代謝異常症の頻度は著しく低い。検査費用が1000円として1万人に1人の頻度の病気を見つけるとすれば、1人の患者を見つけるのに1000万円かかることになる。しかし、NBSが行われず障害児として施設入所や通院にかかる費用が年間300万円と仮定し、NBSによって障害が予防され、通院治療費が年間100万円かかるとするならば、年間200万円が浮き、5年で検査費用1000万円の元が取れる計算になる。そして彼らが成人すれば、社会参加して富を生み出すことになる。

NBSを導入している先進諸国では「NBSはtax eaterをtax payerに変える優良な公衆衛生事業」と言われている。

経済発展の著しいアジア諸国でも、最近NBSに関心が高まっている。数年前に私がハノイ小児病院を訪問したとき、NBSの始まる2カ月前に生まれ首が座っていない生後7カ月の、教科書通りの先天性甲状腺機能低下症(CH)の乳児を何十年かぶりにみた。たった2カ月のために、この子は障害を持って一生を過ごすことを思うと嘆息した。現在、日本ではCHによる発達遅滞は原則としてなくなっている。NBSが空気のような存在になっている日本は幸せな国だと思う。

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