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患者さまは語り部─高齢者社会参加のためのストーリー・テリング[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.88

桑島 巖 (東京都健康長寿医療センター顧問)

登録日: 2018-01-06

最終更新日: 2017-12-20

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私の病院の一角に「患者様は語り部」という冊子を置いて貰っている。

現役退職後も顧問として高血圧外来を担当しているが、血圧が下がらない患者さんでは生活の中で、血圧を上げるようなストレスなどがないかどうかなど、家庭生活に少し踏み込んでお聞きすることがある。

高齢者の中には、いろいろな体験や特技をお持ちの方が少なくないが、そのような貴重な体験談をパンフレットにして他の患者さんに読んで頂くという試みを行っている。高齢者になると友人も少なくなり、家に閉じこもることも多く、社会との接触が少なくなる。そこで、社会への情報発信者として社会参加を促し、孤独感や孤立感を少しでも和らげるのが目的である。

Fさんは、長い間勤めた教師を退職後、ときどき旅行を楽しんでおられる方であるが、84歳のときに長い間憬れていたポルトガルに半年ほど滞在することを思いつき、それを実行されたお元気な女性である。しかし、帰国後は友人もなく家に閉じこもることが多くなり、それがストレスとなって血圧が上昇していた。そこで私はポルトガル滞在記を書いて頂くことを提案したところ、二つ返事でお引き受け頂いた。文章を読むと、とても80歳を超えた人とは思えない「何でもみてやろう」の好奇心に充ち満ちた文章で感動した。まさに心は当に青春なのである。

Mさんは88歳で、1年ほど前にご主人を亡くされた方である。女学生の頃に軍需工場で強制労働されたことや、人形師であった父親の在りし日の生活ぶりを寄稿して頂いた。

別の82歳の女性からは、65歳のときに始めたボタニカルアートが、今や個展を開くまでに上達したお話をお聞きした。

米国では、自分の体験を話す「ストーリー・テリング」によって記憶を定着させ、出来事をまとめることで、認知症予防にも活用されはじめている。高齢期の社会参加を促す上でも有益と考えており、この活動をさらに続けたいと思っている。

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