夏山診療所をご存知ですか。山岳診療所とも言われ、夏季に限定して登山者や山岳観光地を訪れた観光客に対して、比較的簡単な治療や救護処置を行う臨時診療所です。平成24年に「サマーレスキュー~天空の診療所~」としてテレビドラマ化され、認知度が高まりました。その多くは北アルプスの山小屋にあります。昭和大学は昭和6年に白馬岳頂上の山小屋に2つの診療所を、昭和55年には南アルプスの北岳にも診療所を開設し、以来、多くの登山者の医療と山岳衛生に貢献してきました。
毎年7月中旬から8月中旬までの5週間にわたり医学生が1週間単位で滞在し、医師は主としてOBが夏期休暇を利用して2~3日ずつ滞在します。全員朝6時に起床しますが、学生のハウプト(主将)とネーベン(副主将)は5時に起き、早立ちの人に健康アドバイスをします。朝食後、前日の症例検討会を終えると、部員の一部は白馬連峰の地形を覚えるために近隣の山へ遠足に出かけます。時にある夜間の緊急出動時に、その知識が役立つのです。昼食後には3kmに及ぶ白馬大雪渓の直上にある大きな岩の上まで、学生がパトロールに降りて行きます。登ってくる登山者の健康状況を観察してアドバイスをし、夕方に最後の登山者と一緒に山小屋へ戻ります。診療のピークは夕方からです。まず、1年生と2年生が問診をします。上級生が身体診察をして診断を考え、医師が医療処置を行います。入学後数カ月の1年生たちは、ここで医学生になったことを実感します。夜には上級生から屋根瓦式に診察技法の指導を受けます。また、登山してくれた先輩医師の専門分野のレクチャーに学生は皆、目を輝かせて聴き入ります。その後、山小屋の主任、山岳常駐隊、グリーンパトロールの人たちと車座になって酒を酌み交わし(未成年はもちろんノンアルコール)ながら交流を深めていきます。こうした集団生活の中で、学生は医学生・医師としてのプロフェッショナリズムを涵養していくのです。
1週間後、学生は来年もまた登りたい、という気持ちを抱いて下山していきます。