アメリカABCニュースの人気キャスター、ダン・ハリス氏が精神世界を探求する物語。大和書房より刊行
以前からマインドフルネス暝想に興味をもっていました。マインドフルネスとは「今ここで自分に起こっていることを評価せずに自覚する」という意味で、禅や原始仏教の暝想を基本につくられたものです。
興味はあるものの、仏教系の暝想の原理には抵抗感がありました。ブッダは、渇愛(つまり欲望)を滅尽すれば、解脱・悟りに至ると説きます。しかし、欲望をなくすのは生き物として生きていくための能力をなくしてしまうことではないでしょうか。バクテリアでも生存に適さない環境からは遠ざかろうとする能力が備わっているように、自分のエゴにとって良い・悪いの価値付けは、たとえそこから苦悩が生まれようとも、生きるための原動力と考えられるからです。
そんな中で出会ったこの本は、私の背中を押してくれた一冊でした。著者は生存競争の激しい業界で「世俗的に成功」した勝ち組のはずでしたが、うつ病になりドラッグにも手を出してしまいます。生き方を立て直そうと宗教、自己啓発などの世界を彷徨い、ある気づきを得ます。「ネガティブで妄想的でぐるぐる回る自分の頭の中の声にずっと支配されている。昇進できない→禿げる→クビになる→ホームレス」。この「頭の中のおしゃべり」をなんとかするために瞑想にたどりつきますが、懐疑的なジャーナリストらしく、結論は「暝想をすると今より10%くらいは幸せになれる」。現代社会に生きる普通の人が自己の内面の変化を懐疑的につづった経験談で、マインドフルネス入門書としても物語としても面白い内容でした。
とりあえずやってみようと3年ほどマインドフルネス暝想を続けた感想は、少しリターンがあったかな。ただし、役にたつから使ってみようという功利主義的な面はともかく、哲学的な疑問は宿題のままです。