やや古い話題で恐縮ですが、今回は、昨年6月に塩崎恭久厚生労働相の私的懇談会がとりまとめた「保健医療2035」を検討します。私はこれを発表直後に読みましたが、視野は広いが具体性に欠けると判断し、本連載では取り上げませんでした。
しかし、その後、厚労相の強い肝いりで、昨年8月に「保健医療2035推進本部」が設置され、提言具体化のための省全体での検討が始められました。さらに、昨年12月7日の社会保障審議会医療保険部会・医療部会「平成28年度診療報酬改定の基本方針」には、「2035年に向けて保健医療の価値を高めるための目標を掲げた『保健医療2035』も踏まえ、『患者にとっての価値』を考慮した報酬体系を目指していくことが必要である」と明記されました。
そこで、「保健医療2035」を無視することはできないと考えを改め、読み直しました。
「保健医療2035」は冒頭、「人々が世界最高水準の健康、医療を享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築し、我が国及び世界の繁栄に貢献する」という目標を掲げ、それを実現するための「基本理念:新たなシステム構築・運営を進めていく上で基本とすべき価値観・判断基準」として「公平・公正(フェアネス)」「自律に基づく連帯」「日本と世界の繁栄と共生」の3つを示しています。さらに、「2035年の保健医療が実現すべき展望」として「保健医療の価値を高める」「主体的選択を社会で支える」「日本が世界の保健医療を牽引する」の3つを掲げています。
このように崇高でしかも視野が広く、誰もが賛同できる「総論」を掲げた政府関係文書はきわめて珍しいと思います。このことは、委員の平均年齢が42.7歳と若々しく、しかも座長の渋谷健司氏(東京大学大学院医学系研究科教授・国際保健政策学)をはじめ「国際派」が多いためと思います。
私が「保健医療2035」の総論で特に注目したことは、「自律に基づく連帯」の具体的説明で「個々人の自立のみに依存した健康長寿の実現はなく、必要十分な保健医療のセーフティネットの構築と、保健医療への参加を促す仕組みによって社会から取りこぼされる人々を生じさせないことも保健医療システムの重要な役割である」と強調していることです(11頁)。この部分に限らず、「保健医療2035」には「健康の社会的決定要因」を強調する指摘が随所にみられます。この点は、自助や自己責任のみを強調する安倍政権の多くの公式文書とは対照的です。
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