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27. 心不全と認知症の関係(佐藤琢真,安斉俊久)

登録日:
2024-04-12
最終更新日:
2024-04-12

慢性心不全の治療(HFrEF,HFpEF):27. 心不全と認知症の関係

◉心不全と認知症との関連

心不全と認知症は高血圧,脂質異常症,糖尿病をはじめとした多くの発症危険因子が共通しているため,心不全患者では認知機能障害を合併しやすいことが知られている。また,心血管危険因子とは無関係に心不全自体が認知症のリスクを増大させることが報告されている1)。高齢心不全患者における認知症合併の頻度は25~75%であり,その頻度は健常者の2~4倍である2,3)。心不全に対する早期からの適切な治療は認知機能障害の進行抑制にも重要であり,修正可能な心血管危険因子への積極的な介入が求められる。
認知症による記憶障害や注意障害は患者のセルフケア能力や生活の質を低下させ,心不全の病態や予後に大きく影響する。心不全が増悪寛解を繰り返しながら徐々に悪化していく過程において,意思決定能力の低下した認知症患者の意思を治療に反映させることはしばしば困難である。したがって,患者が自ら意思決定できる早期の段階から,心不全多職種チームの介入による先を見越した継続的な支援を繰り返し行うことが重要である。

◉認知症により心不全のセルフケア能力が 低下している場合

認知症を合併した心不全患者の30日以内の再入院率は,認知症を合併しない心不全患者よりも有意に高いことが報告されている4)。心不全の疾病管理にはセルフケアの維持が重要であり,認知症によりこれらが不十分な場合は早期の再入院につながる可能性がある。実際に,認知症患者における記憶障害が内服アドヒアランスの低下を引き起こし,心不全再入院および心不全死を増加させたことが報告されている5)。認知症患者の症状や進行度は個人によって異なるため,セルフケアを支援するためには,各患者の認知機能を評価した上で,認知能力に応じた介入を行うことが重要である。認知症患者のセルフケア能力を最大限に引き出すためには,患者ができないことに焦点をあてるのではなく,患者ができることを支持し,多職種で支援する工夫が必要である。
認知症患者が適切なセルフケアを継続するためにはケアギバーの存在が欠かせないが,認知症患者のケアギバーは身体的・心理的負担や経済的な不安によりうつ病を発症するリスクが高いことが知られている。心不全や認知症は経時的に進行するため,社会的サポートの積極導入を行い,認知症患者およびそのケアギバーを社会全体で支えていく体制を整えることが重要である。時にはガイドラインを逸脱して,患者や家族にとって遵守しやすいシンプルな治療環境を整えることが,患者の病態安定に有効なこともある。

◉認知症によりACPの導入が困難な場合

心不全はその特有の病の軌跡から,予後予測を行うことが困難であることが知られている。そのため,終末期を含めた将来の状態の変化に備えるためのACPを早期より導入することが重要である6)。認知症患者のACPに関しては,「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」において,患者が自ら意思決定できる早期(軽度の認知症)の段階で,今後,本人の生活がどのようになっていくかの見通しを,本人や家族,関係者で話し合い,今後起こりうることについてあらかじめ決めておくなど,先を見通した意思決定の支援が繰り返し行われることが重要であるとされている7)。心不全,認知症はともに進行性疾患であることを認識した上で,多職種チームによる早期からの継続的支援を行うことが不可欠である。
認知症により意思決定能力が低下した場合でも,患者の意思を可能な限り反映することが療養生活の質の向上につながるため,ACPの導入は重要である。これまでいくつかの研究において,適切なACPの導入に必要とされる認知能力のレベルについて検討がされてきた。その中でMMSE(Mini-Mental State Examination)が18~20点以上あることが適切なACPの実施に必要と報告されている8,9)。また,前向きコホート研究において,MMSEの点数が20点未満であることは,意思決定の過程においてケアギバーの関与が増加し,患者自身の意思決定が減少する指標であることが報告されている10)
結果的には意思決定能力がないと判断された場合においても,単に意思決定能力がないという見解のもと,本人ではなく家族や代弁者に同意を求めるのではなく,患者自身が少しでも理解できるよう手段を講じた上で医療・ケア従事者と本人が対話する場を設定するなど,患者の意思の把握に努める必要がある。意思決定能力はその有無で線引きをすることが適切でないことも少なくなく,認知症が中等度の場合は,簡単な言葉や短い言葉,非言語コミュニケーションを活用するなど複数の手段を使って理解を促すことができる場合がある。認知症が重度であっても,好悪を表現したり,部分的な意向を表現したりすることが可能な場面もあるため,医療・ケア従事者には患者のこうした表現も適切にとらえることが求められる。いっそうの認知機能低下や意識障害などのために本人の意思の確認が困難な場合は,以前の患者の言動や生き方,価値観を家族などからよく聴き取り,家族などとの十分な話し合いの下に,患者の意思を可能な限り推定し,尊重することが重要である11)。心不全,認知症が相互に影響しながら進行していく過程の中で,その都度,継続的に,繰り返し話し合うことが大切である。

【文献】
1) Doehner W, et al:Eur J Heart Fail. 2018;20(2):199-215.
2) Ampadu J, et al:Int J Cardiol. 2015;178:12-23.
3) Sauvé MJ, et al:J Card Fail. 2009;15(1):1-10.
4) Manemann SM, et al:J Am Geriatr Soc. 2022;70(6):1664-72.
5) Dolansky MA, et al:Circ Heart Fail. 2016;9(12):e002475.
6) 日本循環器学会, 他, 編:循環器疾患における緩和ケアについての提言(2021年改訂版).
[https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Anzai.pdf](2023年9月閲覧)
7) 厚生労働省:認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン.
[https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf](2023年9月閲覧)
8) Gregory R, et al:Age Ageing. 2007;36(5):527-31.
9) Fazel S, et al:BMJ. 1999;318(7182):493-7.
10) Hirschman KB, et al:J Geriatr Psychiatry Neurol. 2004;17(2):55-60.
11) 日本老年医学会:ACP推進に関する提言.
[https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/press_seminar/pdf/ACP_proposal.pdf](2023年9月閲覧)

佐藤琢真,安斉俊久

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