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洞停止【後編】/Sinus arrest[Dr.ヒロの学び直し!心電図塾(第79回)]

No.5282 (2025年07月19日発行) P.6

Dr.ヒロ|杉山裕章

登録日: 2025-07-18

最終更新日: 2025-07-16

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洞性P波を欠く3秒以上のR-R間隔の延長(ポーズ)

今回は,前回に引き続き,「洞停止」(sinus arrest)について解説します。前編では,「洞停止」の病態生理と基本的な心電図診断基準について述べました。また,類似の病態としての「洞房ブロック」も併せて紹介し,鑑別(注意)が必要だとも述べました。

後編の今回は,やや発展的な内容,そして,より大切な臨床現場での対応についても,詳しく言及したいと思います。では,スタート!

補充収縮のある場合

「洞停止」の心電図診断に関して,冒頭に診断基準を再掲しました。まずは,追加の留意点について,いくつか述べたいと思います。出典にもよりますが,基本的に(2~)3秒以上のポーズを生じるというのが「洞停止」の大事な診断要件の1つです。ただし,厳密に言うと“例外”もあります。図2の心電図をご覧下さい。冒頭の症例とは異なる,76歳,女性です。図2にはV1~V3のみを示しますが,フルバージョンの心電図は図3をご参照ください。

胸部誘導を見て下さい。左から2つ目の洞性P波から,最後(右端)の4拍目の直前まで3秒ちょっとP波はありません。これを洞結節の“居眠り”ととらえれば,「洞停止」のようにも見えなくはありませんよね?

注目して頂きたいのは,間に挟まった,周囲とは形の異なるQRS波(3拍目:緑色帯)になります。この直前・直後ともに,P波は見当たりません。ついウッカリ,“期外収縮”かなと思ってしまいそうですが,違います。「補充収縮」と言って下さい。直前までの洞収縮の間隔よりも遅めのタイミングで出現しており,慣れれば簡単に診断可能です。これは,長時間の心停止による意識消失を防ぐため,心臓に備わった安全網的な“お助け心拍”です。

「補充収縮」に関しては,房室伝導したQRS波形に比較的相同性の高いもの(房室接合部性)と,明らかに異なるもの(心室性)があります。出現するタイミングも重要で,心室由来だと遅くなりがちです。今回は,QRS波形,そして出現タイミングを考慮して,頭に“心室(性)”とつけてもよいでしょう。

ところで,この補充収縮があるために,「3秒以上のポーズ」という条件は満たされておらず,我々の定義では,「洞停止」とは言えないのかもしれません。ただ,病態の“意味”(P-P間隔による解釈)を考えましょう。心電図に真摯に向き合うと,起こっている現象は,「(心室補充収縮を伴う)洞停止」でほぼ間違いないと思います*1。この点は,「洞停止」の定義をR‐R間隔で行う場合の“限界”ではないでしょうか。このように,補充収縮が出たときなど,少しややこしい場面もあるため,注意して下さい。



*1 ボク的には,「洞停止“疑い”,心室補充収縮」と記載したいと思いますが,皆さんのお考えは?

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