SGLT2阻害薬は、安定冠動脈疾患(CAD)合併2型糖尿病(DM)において、4週間服用で心外膜脂肪(EAT)の「厚み」と「糖取込み」を減少させる。この結果は2023年、14例と対象数は少ないものの、ランダム化比較試験(RCT)である"DAPA-HEART"で報告されている。とはいえ、この作用は長期間維持されるのか―。
この問いに答えるべく、同試験を4年間延長した観察結果が、6月20日から米国シカゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)の第85回学術集会で発表された。報告者は、サクロ・クオーレ・カトリック大学ローマ校(イタリア)のCassandra Morciano氏。
SGLT2阻害薬による心臓への作用は、長期間にわたり持続するようだ。
DAPA-HEART試験の対象は、CADを合併した40歳以上の2型DM 14例である。主な除外基準は、「心筋梗塞既往」や「NYHA Ⅲ度以上心不全」「左室駆出率≦50%」「中等度以上腎機能低下」だった。試験開始時のHbA1c平均値は8%。体重平均は84.1kg、BMI平均は28.5kg/m2である。
これら14例はSGLT2阻害薬群(ダパグリフロジン10mg/日)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検下で4週間観察された。その結果、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ、EAT厚が相対的に19%低下し(P=0.03)、同時にEATによる糖取込みも相対的に21.6%抑制した(P≒0.014)。改善されたのはEATだけではない。冠血流予備能(CFR)も、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ、相対的に35%の有意(P=0.008)高値となっていた(論文未収載)。
今回報告のメインは、こちらの4年間延長観察である。上記4週間観察後、全例がSGLT2阻害薬(ダパグリフロジン10mg/日)を服用の上、盲検化されることなくさらに4年間観察された。ただし4年間観察を継続できたのは、14例中9例のみである。
まずEATだが、SGLT2阻害薬による減少作用は、4年後まで維持されていた。すなわち、上記4週間観察SGLT2阻害薬群におけるEATは4年後、有意差には至らないものの、さらなる低下傾向が認められた。また当初のプラセボ群でも、4週間観察終了時のSGLT2阻害薬開始に伴い、4年間観察後のEATは有意に減少した。両群を合わせると、4年間におけるEATは相対的に29%の有意低値となった。
なお、これら全例でBMIとの相関を検討したところ、BMIの減少幅とEAT減少幅の間に有意な相関は認められなかった。SGLT2阻害薬によるEAT選択的な減少作用が示唆される。SGLT2阻害薬に伴うEAT減少の機序として「白色脂肪細胞の褐色細胞化」を、Morciano氏は想定しているという。
一方SGLT2阻害薬によるCFR増加作用も、4年間維持されていた。すなわち、試験当初のSGLT2阻害薬群では、4週間観察後と4年間観察後のCFRに有意差はなかった。また当初4週間のプラセボ群でも、4週間観察終了時のSGLT2阻害薬開始により、4年後のCFRは有意に増加していた。
SGLT2阻害薬使用によるCFR改善の機序として、EAT炎症の抑制をMorciano氏は挙げている。その上で、これら心臓への直接作用も、SGLT2阻害薬による2型DM例心血管系イベント抑制に貢献しているのではないかと同氏は考察していた。
本試験は当初4週間観察時、AstraZenecaから一部、資金提供を受けた。その後4年間観察における資金提供の有無は不明である。