自宅で亡くなると「不審死で警察沙汰や検死になるのではないか」と心配する家族がありますが,その対応について教えて下さい。
継続診療を受ける患者が継続診療中の傷病で死亡したとき,診療の場が自宅であっても医師は死亡診断書を記載できる。
「不審死」という言葉は一般的な用語であり,医学用語・法律用語としては,「異状死体」という言葉を用いる。実は,医師は死体に遭遇した場合,継続診療中の患者でなくても死体検案を行い,死体検案書を記載できる。また,死体検案において異状死体と認めた場合,24時間以内に警察署に届け出ることになっている。異状死体とは,一言で言えば他殺あるいは自殺の可能性がある死体である。死体検案によって異状死体でないと判断した場合,警察署に届け出る必要はない。
しかし,現在この「異状死体届出義務」の考え方がやや拡張的に用いられており,「継続診療していない者の遺体に遭遇した」とき,医師は「念のため」警察署に届け出るのが趨勢である。そのため,まったく医療を受けていない者が自宅で死亡した場合,基本的には検死になると考えてよい。
こうした事情があるため,「自宅で死亡すると検死になるのでは」と心配する患者・家族がいることは理解できよう。その場合,基本的には医療機関に継続受診をしてもらうことが最も良い方法である。外来診療でも在宅医療でも,継続診療を受けている患者が死亡したとき,診療している医師が当該傷病経過のなかで死亡を確認すれば,問題なく死亡診断書を記載できる。したがって,現在訪問診療を受けている患者は,死亡時にかかりつけ医が確認すれば,死亡診断書を書いてもらえると期待してよい。外来診療を受けていても,原則的には同じである。
しかし,一般に死亡に至る道程では,患者はしだいに衰弱し,死亡直前には通院不能なことが多いため,「外来診療を受けていて死亡する」よりは,「自宅や介護施設で在宅医療を受けていて死亡する」「病院に入院して死亡する」ほうが圧倒的に多いと考えられる。
以上のように,「継続診療している医師が死亡診断書を記載できる」ことがポイントである。その意味で,患者・家族は,検死にならないことを希望する限りにおいて,「継続診療している医師が死亡を確認できる」ように配慮する必要がある。
たとえば,自宅療養患者の死期が迫ったとき,家族が救急車を呼ぶなどして「かかりつけ医とは別の医師に受診するように手配する」と,かかりつけ医が死亡診断できなくなってしまう。このときには,検死になってしまう可能性がある。土壇場になってもなんとか助けたいという家族の気持ちは理解できる。しかし,経過の中で近い将来死亡することが明らかな患者の場合,救急車を呼ぶなどして別の医師に受診するのではなく,かかりつけ医との連携を密にしてその経過に対応することが良策である。