独居者の在宅療養への対応について教えて下さい。
ADLが自立に近い者であれば,独居でも在宅療養はあまり問題がない。しかし,身体的虚弱,認知能力低下などで自力生活する能力が乏しくなったときには,在宅療養が困難となる。それでも自宅で療養したい人への支援について述べる。
独居者支援においてケアマネジャーなどの「支援者の選択」は重要である。というのは,経験の乏しい支援者の場合,自分の力量を越えてしまうと,「この利用者は在宅生活は無理」と判断してしまい,独居で頑張ろうとする人に対して施設入所や入院を勧めてしまうことがめずらしくないからである。独居者支援には,独居者を含めた社会的困難事例に経験豊富な支援者を選択することが重要である。
ADLが低下してから独居で自宅にいられるかどうかは介護力に依存する。介護をどれだけ得られるかは経済力に依存する。経済力が乏しい高齢者の独居生活支援は容易ではないが,医療保険のほか,介護保険制度,障害福祉制度,年金保険制度,生活保護制度を基本とし,認知症の場合には,必要に応じて成年後見制度などを利用する。
通常,公的サービスのみで独居生活を維持することは困難である。ある程度の自己資金を使用することが望ましい。現在の高齢者は高度経済成長を生きた世代であり,貧しい場合もあるが,多額の現金や固定資産を持つ人も多い。ただし,これらを自分の医療や介護にうまく利用できるかどうかは別問題である。自宅療養継続を希望する場合,経済力のあることは圧倒的に有利であり,資産の有効活用を提案したい。
ADLが低くても病状が安定しており,1日2回程度の食事が提供され,排泄・保清の世話がなされれば独居生活は可能である。経済力のある人が,家政婦などを利用して24時間介護を受けるのは良い方法である。介護保険では,定期巡回・随時対応型訪問介護看護を利用するのがよい。
独居生活者支援の基本は生活支援である。しかし,病状が安定していないと独居生活は困難である。生命に関わらなくても,たびたび急性増悪や苦痛があると本人や支援者が不安になり,独居生活が困難になりうる。医療従事者の役割は,できる限り病状を安定化させ入院を回避することにある。対症療法も積極的に行う。
独居生活者が在宅療養を断念する大きな要素のひとつは,「身体的な不具合(傷病)が生じたときに誰も助けてくれない」という恐怖感である。①24時間連絡がとれる医療システム(在宅療養支援診療所や訪問看護ステーション),②緊急通報システム,③それらを本人が利用できないほど衰弱した場合に早期発見してもらえるシステム整備で,恐怖感が軽減するとともに本人の生命を保護しうる。③に関しては,1日に最低1回は他者の目を入れるマネジメントを行うことが望ましい。
外傷等も独居生活継続の大きな支障になる。骨折等を契機に独居生活が不可能になる事例が多い。「外傷等を受傷しにくい家屋をつくる」ことが重要である。ベッドの導入,手すりなどの設置,屋内家具の配置,食事場所やトイレへの移動導線の適切な設定などにより,転倒しにくい環境を整備する。
「介助入浴」での死亡事故はほとんどない。入浴死亡事故は,比較的動作の能力が保たれている高齢者が単独で入浴するときに生じる。「比較的動作の能力が保たれている高齢者」に対する留意が重要である。具体的には,「比較的動作の能力が保たれていても虚弱な高齢者は介助入浴(見守りでもよい)させる」に尽きる。