□脊椎の圧迫性脊髄障害による急性な歩行障害では,緊急の除圧手術が必要となる。一方,発症4.5時間以内の脳梗塞による歩行障害では,t-PA(tissue plasminogen activator)による血栓溶解療法が適応となる場合がある。これらの症例では,至急,専門医にコンサルトする。
□急性期には,歩行障害や失調による転倒を予防する。脳血管障害の症例では,必要に応じて呼吸・循環管理を行う。外傷症例では,シーネなどにより応急処置して専門医へコンサルトする。
□慢性期では鑑別診断を行い治療可能な疾患を見つけ,各疾患への特異的な治療を進める。リハビリテーションが介入して筋力トレーニングや平衡感覚訓練を行い,転倒や外傷のリスクを減らす。
□高齢者では,滑り,つまずき,脱力,虚脱,すくみ足など様々な原因により転倒の頻度が増加する。特に一度転倒した高齢者は転倒を繰り返しやすいので,十分な注意が必要である。早期のリハビリテーションの介入が有効である。
□地域に在住している高齢者の10~20%が,さらに老人ホームなどの施設に入所している高齢者の20~50%が,1年間に1回以上の転倒を経験している。歩行障害や運動失調の症例に遭遇したら,筋力の低下によるのか,バランスが悪いのか,感覚障害によるのかを鑑別する必要がある。
□歩行障害の症例では,歩き方(歩隔・歩容など)に注意し,下肢の関節や脊椎の異常などの整形外科的疾患も考慮する。大腿骨頸部骨折や恥骨骨折の患者が歩行障害で受診することもあるので,外傷の既往を丁寧に聴取する。
□神経変性疾患では,家族歴の聴取が重要である。中毒性疾患では,症状が変動することが多い。
□ABC(airway,breathing,circulation)のうち,呼吸数とSpO2によりA・Bをチェックする。骨折や脊髄損傷症例では,Cの血圧低下にも注意する。
□低血糖により運動失調をきたすこともあるので,簡易血糖の測定も迅速に行う。
□歩行障害:歩行障害をきたす神経・筋疾患を表13)に示す。上位運動ニューロン障害では筋緊張亢進,腱反射亢進,病的反射陽性となる。一方,下位運動ニューロン障害では筋萎縮が著明で,筋緊張低下・腱反射消失・病的反射陰性を呈する。歩行障害の原因とその特徴を表2に示した。
□運動失調:運動麻痺はなく,動作・姿勢保持などの協調運動の障害をきたす病態をさす。末梢感覚器から中枢神経への求心路,大脳運動野から末梢への遠心路,情報を処理する小脳・前庭系の,それぞれの障害により起こりうる。各種の運動失調の特徴を表34)に示す。
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