顔面・頭部打撲は,日常生活やスポーツ活動で頻繁に発生し,軽度なものから重篤な外傷まで多岐にわたる。西洋医学では,対症療法や経過観察が中心となるが,伝統的な東洋医学の観点からは,瘀血を改善し,損傷部位の回復を促す治療法が用いられる。その一例として治打撲一方が挙げられる。
打撲や捻挫などに対する代表的な漢方薬は桃核承気湯や通導散や桂枝茯苓丸であり,瘀血の改善と炎症の緩和を目的に使用している,いずれも体力がある人を対象としている。一方,治打撲一方は脈証や腹証はあまり考慮せず比較的体力の低下した人にも使用できる漢方薬である1)。
治打撲一方は,以下の生薬から構成される1)。
川骨:利水・活血・強壮の効能があるので,内出血吸収・組織修復作用があるとして,打撲・捻挫に用いる
樸樕:鎮痛・解毒・消炎・収斂・止血作用が認められている
川芎:活血理気の作用と消炎作用を有す
桂皮:血行促進作用
丁子:小血管を拡張し,血行を促進する作用がある
大黄:組織の分解物・老排物を潟下・排泄する
甘草:抗炎症作用を有すとともに,諸薬を調和し薬力を高め,副作用を防止する
治打撲一方は,血行を促進し,瘀血を取り除くことで腫脹や疼痛を軽減する。特に,炎症を抑える作用を持つ川骨・樸樕・川芎が組み合わさることで,損傷部位の回復を促進すると考えられる。
一般的に,顔面・頭部打撲の治療は鎮痛剤が中心となるが,小児や高齢者に対して鎮痛剤による胃潰瘍や腎機能障害等の副作用が考えられ使用しづらい2)。漢方薬である冶打撲一方では,重大な有害事象は認めにくく,腫脹や内出血の早期軽減,血流改善による組織修復促進,疼痛の抑制といった効果が期待できる2)。
本症例では,顔面打撲に対して治打撲一方を使用し,良好な経過を得た。軽度の打撲において漢方薬を活用することで,早期の腫脹軽減や疼痛緩和が期待できる。